<レスリング>【2023年全日本選手権・特集】実績十分だが、まだ“若手”、全日本V5をステップにロサンゼルスを目指す…女子57kg級・南條早映(東新住建)

(文=ジャーナリスト・粟野仁雄/撮影=矢吹建夫)

2023年全日本選手権の女子57kg級で優勝した南條早映(東新住建)は「優勝できてよかった。絶対に優勝する気持ちでした。相手は強くて難しかったけど、しっかり、取るところは取って、(点を)やらないところはやらない、ということをやり切れてよかった」と、ほっとした様子で冷静に話した。

▲5度目の日本一。パリは逃したが、伸びしろ十分の南條早映

決勝は田南部夢叶(レスターホールディングス)に4-0で勝利。「結構、積極的にアタックしているけど、相手の攻撃をうまく防ぎつつ攻めるのは難しかった」などと控えめだったが、ポイントを失うことはなく、危なげない勝利だった。

この優勝で、55kg級を制した1回と合わせ、全日本選手権を5度制したことになる。それでも「オリンピックの神様」は彼女に微笑んでくれなかった。昨年もこの大会で優勝していたが、ことし6月の明治杯全日本選抜選手権では、急速に力をつけてきた昨年の世界チャンピオンの櫻井つぐみ(育英大)に決勝で敗れた。

7月1日に立川市で行われた、世界選手権代表を争うプレーオフでも敗れてしまう。その櫻井が9月の世界選手権(ベオグラード)で連覇し、「3位以内」の条件をクリアしたことでパリ・オリンピック代表に内定し、南條の夢は絶たれていた。

敗れた2試合とも、ラスト1秒を守り切れない逆転負けだっただけに、悔しさはつのったに違いない。

虚脱感はあるが、応援してくれる人のため懸命に闘う

「オリンピックが駄目で、この1年は苦しくて…。今も苦しいです。大きな穴が開いた感じで、まだ(気持を)切り替えられてはいない。でも、応援してくれる人たちのため、できることを全力でやってきた。オリンピックを目指している時は、ただ(自分のために)頑張ってればよかったけど…」と、精神的に戸惑いながらも、懸命に闘い続けている心境を打ち明けた。

世界選手権の後、10日ほど休んで練習を再開したという。拠点は今も至学館大。「レスリングをやっていることでお給料をもらっているので、マットに立ち続けるのが社会人としての仕事と思う。練習を再開した時は、体力を戻すのが精いっぱいだった。正直、悩んだけど、休まずに頑張れるときは頑張っていこうかなと思います」と前を向いた。

▲59kg級で挑んだ今年の世界選手権。闘いはまだ続く

兵庫県宝塚市の出身。叔父の充寿さんは2016年のリオデジャネイロ・オリンピック柔道女子の監督を務めた。南條は親元を離れてJOCのエリートアカデミーにり、東京で中学・高校時代を過ごした。その後、至学館大に進み、栄和人監督の下で鍛えた。

オリンピックをあきらめる年齢ではない

パリ・オリンピックという大きな目標を失い、脱力感もあるだろう中、やれることを懸命にこなしてゆく努力家の南條。

この日、決勝で彼女のセコンドに入っていた至学館大の栄和人監督は「ちょうど彼女が至学館大学に入学してきたころ、私はパワハラ問題で道場に行くことができなかった。しっかり見てやることができなかったので、申し訳ない思いです。でも、彼女にはまだまだ力がある。くじけずに、次のオリンピックも目指してほしい」とエールを送っている。

▲インターバルで栄和人監督からアドバイスを受ける南條早映

全日本選手権5度優勝のほか、アジア選手権やU23世界選手権優勝、シニア世界選手権でも3位など国際大会の実績も豊富。相当のベテラン選手と勘違いしてしまいそうだが、まだ24歳。オリンピックをあきらめる年齢ではない。

至学館大OGには、吉田沙保里という「厚すぎる壁」に苦しみながらも、31歳で迎えた2012年ロンドン・オリンピック48kg級に出場し、念願の金メダルを手にした小原日登美(旧姓坂本)のような偉大な先輩もいるのだから。

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