[社説]岸田政権と沖縄 解決遠のける強権政治

 「丁寧な説明」「対話による信頼構築」。岸田文雄首相のその言葉が実に空疎に感じられた1年だった。

 名護市辺野古の新基地建設を巡り、国は「代執行」に踏み切った。地方自治法上これ以上ない強権で、米軍に供用する基地建設を断行する。そのこと自体が、県との対話を放棄したに等しい。

 玉城デニー知事は「沖縄の苦難の歴史に一層の苦難を加える」と代執行を批判した。

 復帰前は米軍が銃剣とブルドーザーで土地を奪い、現在は司法判断を免罪符にして国が埋め立てを強行する。沖縄の人々の権利や生活・自然環境を軽んじるような姿勢が通底している。

 台湾有事を念頭にした政府の南西防衛強化策にも「丁寧さ」は見当たらない。

 石垣島の陸上自衛隊駐屯地が開設し、先島諸島での陸自配備が完成したところに長射程のミサイル配備計画が浮上している。

 岸田政権に強い影響力を持つ自民党の麻生太郎副総裁からは、いわゆる有事に際し「戦う覚悟」という発言まで飛び出した。南西諸島の急速な軍備増強は、島々を再び本土の盾とするのではないかという懸念を生み出している。

 米軍との合同訓練の増加や大規模化など日米の軍事一体化も目に見えて進む。

 事あるごとに「基地負担軽減に全力で取り組む」と繰り返す首相の言葉とは裏腹に、米軍嘉手納基地への無人偵察機「MQ9」の配備や、防錆(ぼうせい)整備格納庫の移設をはじめ負担は増える一方だ。

 首相の耳に県民の声は届いているのか。

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 政府は2024年度沖縄関係予算案を23年度当初比1億円減の総額2678億円で閣議決定した。沖縄振興一括交付金は10年ぶりに増加に転じたものの、物価高を勘案すれば減額傾向に変わりはない。

 それどころか自見英子沖縄担当相は空港・港湾の軍民両用化について「沖縄振興の趣旨に反することにはならない」との見解を示した。

 関係自治体と合意できれば年度末に予算配分を判断するとするが、地域振興を切望する離島の足元を見るような施策だ。

 振興策は安倍晋三政権下で新基地建設に反対する県を揺さぶる道具となった。

 復帰50年の節目に「強い沖縄経済」の実現を打ち出した岸田政権では、そのゆがみを正すことが求められていた。しかし本来の目的からさらに離れ、地元への十分な説明もなく軍備増強を急ぐための「アメ」へと変質しつつある。

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 負担やリスクに触れず、国民的議論を避けて施策を押し進める手法は、安倍政権以降の「自民1強」で顕著になった。

 傲慢(ごうまん)な態度は、多くの議員の関与が疑われている政治資金パーティーに絡む裏金づくり疑惑にもつながっているのではないか。政治資金規制法を軽視したとしか思えない問題が次々と露呈している。

 沖縄に対しても岸田政権の強権的な態度が、互いの溝をさらに深め問題解決の道を遠のかせている。

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