森林に新たな価値を CO2吸収量を売買し収益化へ、和歌山・田辺市の林業会社

Jクレジットの仕組み

 和歌山県田辺市の9割を占める森林に新たな価値を生み出そうと、林業会社「中川」(文里2丁目)が、二酸化炭素(CO2)の吸収量や削減量で国が認証したクレジットを売買する「J―クレジット」活用に取り組む。森林管理が収益を生む仕組み。収益は再造林に活用するなどして循環型林業のモデルケースにしたいという。

 森林由来の「J―クレジット」は、間伐や伐採後の山への再造林などが対象になる。中川の管理する森林は田辺市を中心に約4千ヘクタール。年間60~90ヘクタールの植林と約100ヘクタールの間伐をする。

 「J―クレジット」参加には、プロジェクトの登録とモニタリング(削減量や吸収量を算定するための計測)の二つのステップがある。

 そこで登録や認証支援にノウハウのある総合商社「丸紅」(東京都)とドローンを活用した森林の計測やデータ解析に高度な技術がある「ディープフォレスト テクノロジーズ」(京都府)との3社で協定を結んだ。約2200ヘクタールの登録準備を進めている。

 クレジットの購入は、温暖化対策として評価されるため、企業の関心は高い。どの程度の収益になるかはまだ算出できていないが、中川でプロジェクトを担当する大谷栄徳さんは「売却益は山林所有者にも還元したい。適切に森林管理をしていたら利益が生まれる。そんなモデルを全国に広げたい」と話す。

 3社の代表はこのほど田辺市役所を訪問し、真砂充敏市長に協定までの経過や今後の取り組みなどについて報告した。

 真砂市長は「森林は木材の生産だけでなく、環境保全など多様な価値が注目されている。市内の森林は民有林が大半で、小規模の山主も多い。こうした取り組みが広がれば、山林所有の意識も変わる」と期待を込めた。

 J―クレジット制度 省エネルギー設備の導入による温室効果ガスの削減量や適切な森林管理による吸収量を、国が「クレジット」として認証する制度。

 中小企業や地方自治体は創出したクレジットを売って資金を獲得できる。買った団体や企業は購入分を削減量として数えることができる。双方とも環境意識の高さをアピールできる。

真砂充敏市長(手前)にJ―クレジットの取り組みを紹介する中川、丸紅、ディープフォレストテクノロジーズの代表ら=和歌山県田辺市の市長室で

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