三重のオールナイトパチンコ「なぜOK?」弁護士の答えは… 「伊勢神宮の初詣客にトイレを貸す」以外の“うま味”も

「夜通しパチンコを打つ」という“非日常”の体験に、アドレナリンもさく裂?(オールナイト営業中のパチンコ店内/2021年撮影)

三重県の大みそかで、すっかり名物となったイベントといえば「オールナイトパチンコ」だ。

原則、パチンコ店は風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)で深夜(午前0~6時)の営業は禁止されているが、三重県では条例により大みそか12月31日から元旦1月1日にかけて夜通し営業することが可能となっている。

その背景として「伊勢神宮の参拝客にトイレを貸すため」との説が語られることも多いが、果たして…。

オールナイトパチンコの「法的根拠」

パチンコ店に限らず、風営法の規制対象となる店の深夜営業は、同条第13条1項で禁止されている。ただし、都道府県が条例で「習俗的行事その他の特別な事情がある」と定める日、地域においては、例外的に深夜営業が可能となる(同条第13条1項1号)。

三重県でパチンコ店のオールナイト営業が可能となる“仕組み”について、パチンコホールの運営に詳しい三堀清弁護士は以下のように解説する。

「三重県の条例(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例)では、風営法第13条1項の『特別な事情のある日、地域』の閉店時間について、

  • 1月1日:県内全域において午前6時
  • 1月2日~10日、12月21日~31日:県内全域において午前1時

と定められています。これによって、大みそかから元旦にかけて、普段は閉店しなければいけない午前0〜6時の営業が可能となるのです」

「トイレ」以外の“メリット”も

三重県の条例にある「特別な事情」について三堀弁護士に尋ねると「やはり伊勢神宮の存在では」と言う。

「私自身、三重県の津市に住んでいたことがありますが、全国の神社の中心である伊勢神宮を筆頭に、県内の神社には毎年、大みそかからお正月にかけて多くの参拝客が訪れます。伊勢神宮で外宮(げくう)や内宮(ないくう)を巡るように、夜を通して複数の神社へ参拝する人も少なくありません。

条例が『特別な事情のある日』として年末年始の期間を定めていることからも、初詣を想定して営業時間の規制を緩和していると考えるのが自然ではないでしょうか」

大みそかの朝、営業開始を待つパチンコファン(三重県内/2021年撮影)

規制緩和の理由が一般的に「参拝客へトイレを貸すため」と言われていることについては、「たしかにそういった目的もあると思いますが、防犯や経済効果の面でも一役買っているのでは」と指摘する。

「パチンコ店が多く立ち並ぶ街道筋は街灯があるとはいえ、やはり夜は暗く、昼間よりは人通りが少ない。パチンコ店が営業することで道は明るくなりますし、人の目も増やすことができます。

また夜通しパチンコを打てる機会はそうそうなく、オールナイトパチンコを目当てに県内外から大勢のファンが訪れます。食事、お土産、宿泊、ガソリンなど、パチンコそのもの以外での経済効果も生み出していると言えるでしょう」

伊勢神宮より参拝客が多い神社はたくさんあるが…

しかし、伊勢神宮が全国の神社の中心とはいえ、初詣の参拝客は例年50万人ほど。約300万人が訪れると言われる明治神宮(東京都渋谷区)のほか、200万人以上が訪れるという伏見稲荷大社(京都府京都市)、熱田神宮(愛知県名古屋市)、太宰府天満宮(福岡県太宰府市)など、伊勢神宮よりも参拝客の多い神社は全国各地に少なくない。

三重県の理屈で言えば、他の都道府県でも条例で定めさえすれば「オールナイトパチンコ」ができるはずだが、なぜやらないのか。

「たしかに理論上、やろうと思えばどの都道府県でもできると思います。ただしパチンコに対する世の中の目が厳しくなっている昨今、『あえて今からやる必要があるのか』という問題に直面するでしょう。

三重県でも、お手洗いの提供、防犯、経済効果などの“うま味”がある一方、オールナイトパチンコの禁止や自粛を求める陳情が県議会へ複数回に渡って提出されるなど、反発があることも事実です。

世の中の流れを考えれば、他の都道府県でも反対の声が上がることは必至で、それを跳ねのけてまで規制を緩和するメリットがあるかと考えれば、なかなか難しいのではないでしょうか」(三堀弁護士)

オールナイトパチンコ明けの初日の出(三重県内/2021年撮影)

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