社説:暮れゆく一年 新旧の弊害に向き合わねば

 「人類滅亡に関わる巨大なリスク」。7月、国連の会合でグテレス事務総長が発したのは、人工知能(AI)の急激な広がりへの警告だった。

 誰でも簡単に文章や画像を作れる生成AIが脚光を浴びた。企業や行政で導入が進む一方、政治家の偽動画やテロのデマが拡散されるなど、世論を誘導する悪用リスクが現実化した。

 欧米が先行して開発・利用規制は動き始めたばかり。軍事、情報戦にも及ぶ「新たな脅威」を突き付けられた年となった。

 世界では、信じ難い現実が続く。10月、パレスチナ自治区ガザを巡り武力衝突が勃発。テロに報復してイスラエルが空爆や地上侵攻を続け、ガザ内の死者は2万人を超えた。避難住民の水や食料も欠乏し、極まる人道危機を国際社会は止められずにいる。大国間の対立から国連は事態打開へ結束した動きを取れず、機能不全は深刻だ。

 ロシア軍侵攻から2年が近づくウクライナは、領土奪還の反転攻勢が難航。欧米などの「支援疲れ」が懸念されている。

 5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は被爆の実相を伝える一方、核抑止力を正当化して失望を招いた。核兵器禁止、不拡散の協議や、相次ぐ気候災害を防ぐ温暖化対策でも世界の分断が影を落とす中、日本の外交力が問われている。

 3年余の新型コロナウイルス禍から正常化が進んだ。5月に感染法上の5類に移行し、行事の再開や人の移動が活発化した。京都でも訪日客が急回復する一方、観光業界の人手不足や、混雑などオーバーツーリズム対応が課題となっている。

 暮らしは、資源高と円安から3万品目超の食品値上げなどで歴史的な物価高に。大企業で4%近い賃上げも広がりを欠いた。実質賃金は1年半以上も目減りが続き、家計を圧迫した。

 秋に3年目に入った岸田文雄政権は、経済重視で13兆円超もの補正予算を組み、「平時化」方針に反し財政膨張を続けた。防衛費「倍増」などの財源確保を先送りする一方、唐突に定額減税4万円を進め、借金頼み体質に国民の不信が膨らんだ。

 首相が掲げる「経済の好循環」は、物価上昇を上回る賃上げにかかる。その広がりを注視するのが日銀だ。大規模金融緩和から10年の4月に就任した植田和男総裁の下、金融市場をゆがめる弊害緩和へ運用の柔軟化を重ね、出口を探りつつある。

 政権浮揚を狙った9月の内閣改造も、不祥事にまみれ政務三役が次々辞任、前法務副大臣は買収容疑で逮捕された。

 自民党派閥の底なしの裏金問題は強制捜査に発展した。安倍派実力者ら議員の立件と組織的な不正の解明が焦点だ。

 後手に回り続ける首相の場当たりな対応と説明は目に余る。政治にはびこるカネの病巣を断つ抜本的な対策が問われよう。

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