複数のメーカーが購買促進で協働 「消費者を主語にすると敵対関係にならない」 流通革命に挑むトライアル⑤

顧客によりよい購買体験を提供することを最大の目的に、40兆円強と推定される流通にまつわるムダ・ムラ・ムリの解消に挑むトライアルホールディングス。

福岡市と北九州市のほぼ中間に位置する宮若市を世界初のリテールテックの街にすべく、2021年に福岡県宮若市と九州大学との産官学連携で「リモートワークタウン ムスブ宮若」プロジェクトを本格始動させた。

宮若市の廃校となった小学校と中学校の校舎をリテールAI開発拠点へリノベーションして、最先端のIoT技術の開発と高度化を図るとともに、取引先のメーカーを招聘してメーカー社員とともに流通革命に取り組んでいる。

「MUSUBU AI」

リテールAI開発拠点の中でオープンイノベーションの場が「MUSUBU AI」。ここには東証プライム上場企業を中心に12企業と1団体が入居する(23年4月現在)。

入居企業の社員の多くはホテルと行き来して「MUSUBU AI」に集まり、ここで月に1回程度「宮若ウィーク」と題して異業種や競合企業間でマーケティング課題など共有している。

宮若ウィークの参加企業は39社184名(2023年4月時点)
中には同業他社同士の巡りあわせもあり、情報共有の深度には限りがあるように思える。

5月17日、トライアル協力のもと流通報道記者会で開催されたアサヒグループジャパン、花王グループカスタマーマーケティング、カルビー、サントリー、日本ハムの5社の社員が一堂に会した取材会

このような疑問に応えるべく、5月17日、アサヒグループジャパン、花王グループカスタマーマーケティング、カルビー、サントリー、日本ハムの5社の社員が一堂に会した取材会がトライアル協力のもと流通報道記者会で開催された。

ここで得られた回答を額面通りに受け取ると、「MUSUBU AI」では競合が足を引っ張りあうことなく手を携えていると言える。

「日本の流通業界の生産性はアメリカの7分の1程度。要因の1つとして、価格競争があり、少しでも安く売りたい流通業界の構図では、モノを主語にするとどうしても敵対関係になりやすいが、消費者を主語にすると敵対関係はなくなり協調関係に変わる」――。

こう語るのは、サントリーの中村直人広域営業本部第2支社長。兼業で、電通グループとトライアルホールディングス傘下のRetail Ai X社との合弁会社・SalesPlus社のアドバイザーを務める。

「宮若ウィーク」では、顧客によりよい購買体験を提供するという最大の目的に向かい、トライアルと複数のメーカーが一緒になってショッパーマーケティング・カテゴリーマネジメント・商品開発の3つの向上に取り組んでいる。

日本の流通をよりよくしていくためのオープンイノベーションの考え方に基づき、ここで得られた知見は、他の流通小売業での横展開が推奨されている。

*流通報道記者会で5月取材

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