かつての「貧困の中の子どもたち」は今 子どもの声に耳澄ます これまでの10年と、その先 希望って何ですか

「居場所」で支援を受ける子どもが坂道を駆け上がる。あらためて子どもたちの今を見つめ、その先にある未来を考える=2023年12月27日午後、宇都宮市内

 「子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備する」とうたった、子どもの貧困対策推進法施行から10年を迎える。

 下野新聞は同法が施行された2014年1月から半年間、大型企画「希望って何ですか 貧困の中の子ども」を連載し、子どもの貧困の実相を追った。経済的困窮に端を発した影響に苦しむ子どもと、寄り添う大人の姿。そして、支えられて「育つ」子どもの姿を見つめてきた。

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 10年前。中学生の少年が暮らすアパートは水道やガスが止まっていた。ご飯も満足に食べられない日々を送っていた。

 そんな少年を支援しようと、日光市内のNPO法人が食事に入浴、洗濯など基本的な生活習慣を身に付けられるよう「親と子の居場所」をつくった。居場所はこの10年間で、県内各地へと広がった。

 14年7月に開設した小山市の「シリウス」もその一つ。小林啓一(こばやしけいいち)さん(22)にとっては、開設当初から中学卒業までの約3年間通った思い出の場所だ。

 給食費が払えない、電気が止まっている…。家計の苦しさに加え、祖父からの暴力もあった。「シリウスが唯一の居場所」だった。

 支えられ、実感したのは「人って優しいんだな」ということ。心の開き方が分かるようになった。少し、生きやすくなった。

 昨年12月、小林さんは当時の運営者仲村久代(なかむらひさよ)さん(75)と数年ぶりに再会し、近況を伝えた。物流関係の仕事に就いていること。給料を積み立てながら、小学生の妹に欲しい物も買ってあげられること-。

 「今こうして生きていられるのはシリウスのおかげ」。感謝を伝えた。

 目頭を熱くした仲村さんは、こう返した。

 「当事者の声が、社会を変えていくのよ」

 かつての「貧困の中の子どもたち」が語り始めた。今を生きる子どもたちのために。

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 11.5%。

 貧困状態にある18歳未満の子どもの割合を示す最新の数字だ。

 10年前より改善された一方で、貧困にさらされている子どもの生活状況が良くなったわけではない。

 いまだ9人に1人が貧困の中にいる。不登校にある子どもや発達に課題を抱える子どもも多く、新型コロナウイルス禍や物価高騰が追い打ちをかける。

 宇都宮市内、子どもの居場所。ここには多様な困難を抱える子どもが通っている。

 生活保護家庭で暮らす中学生の家は、衣類やごみが散らかり、足の踏み場がほとんどない。学校にも足が遠のき、日々諦めにも似た感情を抱いている。

 居場所に通う日は、外に出るわずかな機会。いつもより少し、心が弾む。

 12月下旬。

 「散歩に行こう」

 高校生の呼びかけに応じて、子どもたちみんなで歩き出した。

 まっすぐ進む道の先に、「希望」はあるだろうか。

 10年がたった今、あらためて子どもたちの姿を見つめ、その声に耳を澄ませたい。「希望って何ですか」と自らに問いかけながら。

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