美輪明宏さん「身近にある幸せを数えてみれば、日常が明るく穏やかに」

「不平不満を並べる前に、日常を見つめ直してみましょう」(写真:御堂義乘)

《先の見えない不安に駆られることもある現代で、私たちは新しい年をどう生きていくべきか、美輪明宏さんにアドバイスをもらいました——》

’23年も、国内外で気になる出来事がたくさんありました。世界的な事象でいうと、やはりロシアとウクライナ、そしてイスラエルとハマスの戦争です。アジアでも東シナ海周辺の緊張感が増してきています。まるで第二次世界大戦が始まる前と似たような状況にも思えるのです。

私は先の戦争を経験しています。戦争のない平和のありがたみを身に染みて感じます。だから他人ごととは思えません。戦争の歴史は、古代から何千年以上も繰り返されています。つまり、人間は同じ過ちを何度も何度も繰り返す生き物なのです。そもそも世界中の人々が、すべて同じ思想や価値観で生きているわけではありません。

しかし、いつの時代にも愚かな指導者が現れ、“我こそが正義だ”と、1つの価値観を武力で正当化しようとする。そこで犠牲になるのは、いつも罪なき民たちです。それでも人間は戦争を何度も繰り返すのです。

みなさん、地球全体がお花畑だと想像してみてください。日本の国花は「菊」ですね。アメリカは「バラ」、オランダは「チューリップ」、フランスは「ユリ」、ロシアは「ヒマワリ」です。国花はそれぞれ国によって違います。花にはたくさんの品種があり、動物や昆虫も、さまざまな種類がいます。人間も同じ。それなのに、異なる思想や価値観を否定し、1種類にしようという発想自体が無理なことなのです。国によって考え方も意見も異なるのですから。

それは、身近な職場の同僚や友人、夫婦関係においても同じことが言えます。所属する組織の違い、男女の違いがあることから、自分自身が不安や葛藤、苦しみ、悲しみなどで悩むことがあるでしょう。人生を過ごすなかで、夫や妻、上司や仲間の考え方に疑問を感じたり、ときには自分の生き方や性格がだんだん嫌になってくることもある。

そういうときは“人は人、自分は自分”と考えることができれば、腹も立ちません。さまざまな価値観があって当たり前。そう思って生きるべきなのです。人は不幸の数ばかりかぞえます。自分の容姿や欠点を気にして、それをコンプレックスにする。そして他人に対しても、自分と同じような欠点がないかと粗探しする。

つまり、

《人は不幸の数はかぞえるが 幸せの数はかぞえない》。

でも、冷静に考えてみてください。まず、元気でいられる。そして見える、聞こえる、喋れる、歩ける、飲める、住む家だってある。本来、不幸の数より、幸せの数のほうが多いはずです。そのことを見失っていませんか?

ふだん当たり前に思っていることが、どれだけ幸せなことか。感謝すべきことがどれだけあるか、一度数えてみることです。すると、“なんてつまらないことでイライラしていたんだろう”“私は不幸じゃない”と、気づけるはずです。

幸せの数をかぞえる人生に切り替えることで、嫌なことや辛いことがあっても、明るく穏やかに過ごせるようになるでしょう。

悲観ばかりせず、身の回りにある幸せを見つめ直して、前向きな気持ちで’24年を迎えてください。

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