初詣の屋台は「反社会的勢力」が運営している? “元テキヤ”の社会学者が明かす「お祭り出店者」の正体

縁日に花を添えるテキヤ(ごんちー / PIXTA)

初詣などの縁日で露店を出している「テキヤ」(露天商)に対して「ヤクザ」(暴力団)が何らかの関与をしているといったイメージを抱いている人は少なくないかもしれない。

それらは都市伝説的に語られる一般人の中での想像なのだろうか。また現実だとしても、反社会的勢力に厳しい目が向けられる昨今、そもそも多くの一般人が行き交う縁日で、暴力団が堂々と商売することはできるのだろうか。

テキヤとヤクザ「別のもの」

『テキヤの掟』(角川新書)などの著書もある社会学者・廣末登氏は、「そもそもテキヤとヤクザは別のもの。一部、テキヤ業にも参入している暴力団をのぞけば、ほとんどのテキヤは構成員とは無関係です」とその母体や背景について解説する。

「テキヤは関東大震災の後、がれきの山となった東京に失業者があふれたことで一気に増えました。しかしその後、戦争が始まって人や物資が不足し激減。終戦後に再び数を増やしますが、敗戦による治安悪化の中、進駐軍によって警察は武装解除されてしまいます。

当時は屋外で商売するテキヤを狙った暴行事件なども多く、彼らは自衛のためにグループ化せざるを得なかった。“親分”が仲間を取りまとめるといった組織的構造が似ている点や、その後暴力団になっていった団体もあったこと、“みかじめ料”を介したつながりなどから、ひとくくりにされてしまいがちなのではないでしょうか」

近年は、テキヤと暴力団の“決別”の動きも出てきている。

愛知・豊橋市の露天商らによる「愛知県東部街商協同組合」は2023年11月、これまで暴力団に支払ったみかじめ料2000万円の返還を求めて名古屋地裁に提訴。同組合は同年7月に記者会見を開き、暴力団との絶縁を宣言していた。

また2022年7月には、東京・浅草を拠点とする暴力団「姉ヶ崎会」が解散。同会はもともとテキヤを稼業としており、解散後は「浅草甲州家」として祖業に原点回帰しているという。

「賞味期限切れの食材を使用」ウワサの真相は…?

廣末氏によれば、テキヤで言う“親分”とは各露天商組合の組合長および理事長のことだ。寺社や地域ごとに組合があり、その場所で行われる縁日に出店するテキヤを束ねているという。

「出店の配置(テイタ割り、ショバ割り)、売り物の内容(ネタ)、食中毒を出さないための衛生管理、ゴミの回収など、縁日を円滑に進めるためにテキヤが守るべきルールは多岐にわたります。これらを采配するのが親分の仕事です」(廣末氏)

廣末氏自身も、かつてテキヤで働いた経験を持つ。SNSなどの一部でささやかれる「賞味期限切れの食材を使っている」「弱った金魚やヒヨコを売っている」というウワサについては次のように話す。

「テキヤ仲間から『30~40年前にそういうことをしている人がいた』という話を聞いたことはあります。しかし、私がテキヤで働いていた10年ほど前にはすでに『食中毒を出すのが何よりも怖い』という共通認識があり、『しっかり手を洗え』『よく焼け』と口酸っぱく言われたものです。

焼き鳥なんかも生焼けが怖いので、基本的には下ごしらえとして一度ゆでたものを冷凍して、現場で焼き色と味をつけるだけの状態にしています。

この背景には、万が一食中毒などの騒動が起きれば場所を貸してくれている神社などに迷惑がかかる、さらには祭りを取りまとめている“親分”の顔をつぶしてしまうという連帯感があるものと思います」

「ヤクザが暴力団対策法を恐れるのに対し、テキヤがもっとも怖いのは食品衛生法」と廣末氏(かたな / PIXTA)

手取り月収は20万円ほど

テキヤにとっての稼ぎ時は正月と、祭りの多い5月、9月。この期間にしっかりもうけると、毎月の手取りは年間平均で20万円ほどになるという。ただし頻繁に縁日を開催する寺社はそう多くないため、副業を持っているテキヤも珍しくない。業種は足場工事や解体工事といった建設業が多いという。

テキヤは見た目以上の重労働だ。実際に就労経験がある廣末氏も「キツイ、汚い、危険の3Kですからね、たしかに大変な仕事です」とその実情について話す。人手不足でどの業界も引く手あまた、さらに賃上げが進む中、テキヤ業界でも担い手不足が問題となっているようだ。

「みんながそうだとは言いませんが、テキヤはある種、一度人生につまずいた人たちのセーフティーネットになっている一面もあります。お客さんと顔を合わせて話すことで人間関係のリハビリにもなりますし、『この祭りは自分たちが盛り上げているんだ』という自負や責任感も芽生えてくる。

たとえば今なら、闇バイトに手を出してしまった若者たちはデジタルタトゥーが刻まれてしまったり、銀行口座が作れなくなってしまったりして、社会復帰が難しい現状があります。そういった人たちを受け入れれば、社会にとっても、テキヤ業界にとっても、プラスになるのではないかなと考えています」(廣末氏)

© 弁護士JP株式会社