新年のごあいさつを申し上げます

旧年中は国境なき医師団(MSF)の活動にあたたかいご支援を賜り、誠にありがとうございました。

2023年は2月に起きたシリア・トルコ地震をはじめ、世界各地で紛争や自然災害が相次ぎ、MSFが緊急援助に動くことが多い1年でした。

中でも世界的な注目を集めたのは、パレスチナを巡る危機です。10月7日に紛争の激化が始まった時点で、地元と各国から集まったスタッフを合わせて約300人が、ガザ地区で働いていました。うち3人は日本からの派遣スタッフでした。

日本人スタッフ3人がガザを出た後も、会長の中嶋が11月中旬から12月上旬までガザに入り、南部のナセル病院で医療活動を行いました。

ガザの病院で活動する中嶋 © MSF

ガザで起きているのは、一般市民、そして医療への無差別な攻撃です。

ガザの病院の8割は機能停止状態となりました。北部アル・アウダ病院では、患者さんのために病院に踏みとどまり医療活動を続けていたMSFのパレスチナ人医師ら2人が攻撃を受けて亡くなりました。ガザ北部から避難しようとしたMSFのスタッフと家族を乗せた車列も銃撃され、スタッフの家族ら2人が亡くなりました。

人災である紛争だけでなく、シリアとトルコやモロッコ、アフガニスタンでの地震など自然災害も相次ぎました。さらに気候変動が人びとの命と健康に与える脅威も、現実のものとなってきました。

9月に起きたリビアでの洪水では、気候変動の影響で大雨が降ったことが指摘されました。温暖化が進んだことで病原体を運ぶ蚊が活動する範囲が広がり、マラリアの症例が年1500万件、関連死が3万人増えると予想されています。また、デング熱では10億人以上が影響を受けると考えられています。こうした問題の対策にも今年、地球規模で取り組む必要があります。

一方で昨年、私たちが地道に取り組んできたことが成果を上げました。

MSFは世界各地で今も深刻な脅威となっている結核対策などで、弱い立場に置かれた人びとのため医療アクセスの改善を求めるキャンペーンを続けてきました。その結果として昨秋、高価だった結核の検査キットの20%値下げや、ある抗結核薬の開発元企業が値下げをしたうえ、低・中所得国で特許権をこれ以上行使しないことが、相次いで発表されました。これにより、安心して結核の治療を受けられる人の数が増えることが期待されます。

私たちがこうした活動を続けられるのは、皆さまのご支援があればこそです。10月に実施した、ガザでの無差別攻撃の即時停止と医療の保護などを求めるオンライン署名では、約2週間で10万人を超える方々のご賛同をいただき、その声をしっかりと日本政府に届けました。改めて、皆さまに厚く御礼申し上げます。

今年も私たちは、各地で活動を続けてまいります。人道の観点から改めて世界各地で起きる医療への攻撃の即時停止を強く求めます。ガザでの即時停戦を求める声も上げ続けます。そして、現場で目撃した事実の証言活動を続けます。

2024年。世界で人道援助の輪をさらに広げられる年であるように、活動によって命を繋ぎとめられる人が1人でも増える年であるように、私たちは努力を続けます。

国境なき医師団日本を、本年もよろしくお願い申し上げます。

国境なき医師団日本
会長 中嶋優子
事務局長 村田慎二郎

左:中嶋 右:村田 © MSF

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