【能登半島地震】正月飾り散乱 変わり果てた珠洲 記者も涙 本紙記者ルポ

地震で倒壊した家屋=珠洲市宝立町鵜飼

 1年前まで暮らした珠洲の変わり果てた姿を目の当たりにし、涙があふれた。見附島のある宝立地区でも、いまだ連絡が取れない人たちがいる。「ばあちゃん、生きとるか。声聞かせてくれんか」。大きな揺れにおびえながら、崩れた屋根の上から懸命に問いかける住民の様子に言葉を失った。(元珠洲支局長・宮本章史)

 見附島に近い鵜飼という地域は壊滅的だった。商店はほとんど崩れ、路地は通れない。まち行く人たちは安全を確かめながら、崩れた屋根の上を歩いていく。

 内浦の海から100メートルほど離れた道には、体長50センチほどの魚の死骸が見て取れた。津波が押し寄せたのだろう。辺りは朽ちた木材と潮が交じったようなにおいがする。道にはねっとりとした灰色の土が覆い、小さな魚にも絡みついていた。

 倒壊した家屋のそばには正月飾りや重箱が無残にも散らばる。帰省してきた家族とおせちを囲んで楽しい時間を過ごしていたのだろう。そんな中を地震と津波の恐怖が押し寄せたと思うと、察するに余りある。

 会いたくても会えない人がいる。能登町松波の干場勝雄さん(73)は珠洲市鵜島で1人暮らしをする80代の叔母の行方を探していた。「建物は無事だったが、どこを探してもおらん。携帯もつながらん」と不安な表情をのぞかせた。

 こうして記事を書いている最中も、震度5強をはじめとした強い揺れが続いている。1年前までは下から「ドン」と突き上げる揺れが2、3秒ほど続くだけだったが、今の地震は小さなものでも縦揺れの後に横揺れがくる。しかも時間は以前よりも長い気がする。今後の天候も気掛かりだ。地震が続き、懸命な救助活動が行われる中、被災地を濡らす無情の雨が憎らしい。

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