「西日本は南海トラフ発生前の地震活動期」能登半島地震 “流体の影響”研究する専門家指摘 阪神・淡路大震災前より “切迫”評価 危険度「最高ランク」の活断層とは 

南海トラフ地震前の「地震活動期」 “流体が影響”指摘の研究者

2024年の年明け早々、能登半島を襲った最大震度7の大地震。これまでに死者は200人を超え(213人・11日午前9時現在)、今なお断水や停電などで復旧のメドが立っていない地域も少なくありません。

今回の地震域付近では、2023年5月にも震度6強を観測するなど、およそ3年にわたって活発な地震活動が続いています。今回の地震発生には地下深くから流れこんできた大量の流体が関係しているのではと指摘されています。

人工衛星の位置情報から地盤の動きを解析することで、流体が影響した可能性を指摘している研究者の一人が、京都大学防災研究所地震災害研究センターの西村卓也教授です。

西村教授は「西日本は南海トラフ地震発生前の『地震活動期』に入っている」と指摘します。西日本を取り巻く地震活動の現状について取材した内容をあらためて紹介します。(取材:2023年3月)

神戸、鳥取、熊本…増える内陸直下型地震 南海トラフ地震の前触れか

西村教授は、人工衛星からの電波を受信して地上の位置を正確に測る「GNSS」と呼ばれる仕組みを使って地盤の動きをミリ単位で解析し、地震を引き起こす「ひずみ」がどこにたまりやすいのか調べる研究をしています。

「GNSS」GPS(アメリカ)やGalileo(ヨーロッパ)などの衛星測位システムの総称で、スマホやカーナビなどに利用されています。国土地理院は全国に約1300か所(約20km間隔)の電子基準点を設置しているほか、携帯電話会社などの民間企業や研究機関も独自の基準点を設置しています。

西日本で発生が差し迫っているとされる南海トラフを震源とする大地震。ただ、西村教授は、大地震の脅威は南海トラフに限った話ではなく、現在、西日本は「南海トラフ地震が発生する前の『地震活動期』に入っている」と指摘。南海トラフ地震が発生する前後には、内陸で起こる地震が増える傾向にあるといいます。

南海トラフ地震発生前後 内陸地震の活動活発になる傾向

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「西日本では南海トラフの地震の前後に、内陸地震の活動が活発になる傾向が、過去の歴史から知られていて、阪神・淡路大震災(M7.3・1995年)や鳥取県西部地震(M7.3・2000年)、熊本地震(M7.3・2016年)も、その一環として起きたと考えられる。
いわゆる内陸の直下型地震と呼ばれる震源の浅い地震が起こりやすくなって、規模自体は南海トラフ地震よりは小さいけれど、震源が人の住んでいる所に近いので、震源の周辺ではかなり大きな被害が出る。
前回の南海トラフ地震が、1944年・1946年にあって、それ以降、西日本の内陸では大きな地震が50年くらいほとんどなかった。ただ、ここ20年くらい、あちこちでポツポツ起きているのは、地震の活動期に入ってきているという見方がされている。」

南海トラフ地震は、海側のプレートと陸側のプレートが接する場所がズレることで起こる地震です。広い範囲で一気にズレるために地震の規模は大きく、場合によっては巨大地震となります。

一方、内陸地震は、地表付近の活断層で起こる地震です。南海トラフ地震に比べると、一つ一つの地震の規模は小さいですが、地表のすぐ近くで起こるために震源近くでは激しい揺れに見舞われます。阪神・淡路大震災や熊本地震もこのタイプです。

活断層の危険度を4つのランクに 最高ランクは全国31の活断層

この内陸地震を引き起こす主な要因となるのが活断層です。政府の地震調査研究推進本部(=地震本部)によると、全国にはおよそ2000の活断層があるとされていますが、このうち全国114の活断層について地震発生の危険度を以下の4つのランクに分けて評価しています。

今後30年以内の地震発生確率
Sランク 3%以上 Aランク 0.1~3%未満 Zランク 0.1%未満 Xランク 不明

最も危険度が高いものが「Sランク」です。今後30年以内に地震が発生する確率が「3%以上」と評価した活断層が該当します。2023年1月に公表した最新データでは、Sランクの活断層は全国に「31」あります。

Sランクの活断層

北海道
「サロベツ断層帯」 「黒松内低地断層帯」
山形
「新庄盆地断層帯」一部
「山形盆地断層帯」一部
「庄内平野東縁断層帯」一部
新潟
「櫛形山脈断層帯」 「高田平野断層帯」一部
「十日町断層帯」一部
富山
「礪波平野断層帯・呉羽山断層帯」一部
石川
「森本・富樫断層帯」
神奈川・静岡
「塩沢断層帯」
三浦半島(神奈川)と周辺海域
「三浦半島断層群」一部
長野・山梨
「糸魚川ー静岡構造線断層帯」一部
長野
「境峠・神谷断層帯」一部
長野・岐阜
「木曽山脈西縁断層帯」一部
静岡
「富士川河口断層帯」一部
岐阜
「高山・大原断層帯」一部
岐阜・長野
「阿寺断層帯」一部
滋賀
「琵琶湖西岸断層帯」一部
京都・奈良
「奈良盆地東縁断層帯」
大阪
「上町断層帯」
奈良~和歌山~淡路島(兵庫)~四国北部~大分
「中央構造線断層帯」一部
広島・山口の沖合
「安芸灘断層帯」
山口・大分の間の海底
「周防灘断層帯」一部
山口
「菊川断層帯」一部
島根
「宍道(鹿島)断層」 「弥栄断層」
福岡
「福智山断層帯」
玄界灘~福岡平野
「警固断層帯」一部
熊本
「日奈久断層帯」一部
長崎
「雲仙断層群」一部

阪神・淡路大震災発生直前より危険度“切迫” 特にリスク高い8つの活断層

「Sランク」の活断層の中には、発生確率が阪神・淡路大震災が発生する直前の「8%」を超える、特にリスクの高い活断層が8つあります。

発生リスク8%超の活断層
「三浦半島断層群」(神奈川) 「富士川河口断層帯」(静岡) 「糸魚川ー静岡構造線断層帯」(長野県内) 「境峠・神谷断層帯」(長野) 「阿寺断層帯」(岐阜・長野) 「中央構造線断層帯」(愛媛県内) 「安芸灘断層帯」(広島・山口) 「日奈久断層帯」の一部(熊本)

その一つ、広島湾を走る「安芸灘断層帯」は、江田島市の沖合から岩国市の沖合にかけての安芸灘西部に分布する活断層帯です。長さはおよそ26kmあります。1995年に阪神・淡路大震災が起きたあと、海上保安庁の測量船などによって詳しく調査されました。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「過去に繰り返して起きてきた地震の間隔がある。安芸灘断層帯では、だいたい4千年に一回くらい地震が起きてきたと言われている。安芸灘断層帯の最新の活動は4600年±1000年前くらい。最新の地震がいつ起きたのかと、平均の発生間隔を比較することで「Sランク」と判断されている。」

「安芸灘断層帯」の今後30年以内の地震発生確率は「0・1%から10%」とされ、もし全体が一度にズレた場合、マグニチュード7・2程度の地震が起こる可能性が指摘されています。

活断層が未確認でも “地震活動が活発なエリア”が存在

一方、Sランクよりも危険度が低いとされるAランク、Zランクといった活断層や、危険度が不明のXランクとされる活断層であれば、大きな地震のリスクは低いのでしょうか。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
活断層があること自体が危険活断層は過去に地震を起こした”古傷”ですので、将来的にも地震が起こる所と思われている。
危険度が不明というのは、平均の発生間隔がわからないとか、最近いつ地震が起きたのかがわからない活断層。もしかすると、最近はまったく地震が起こっていないため、次の地震が起こる満期に近い断層かもしれない。危険度ランクが不明(=Xランク)の活断層の中でも、地震の発生が切迫しているものはあると思う。」

また、西村教授は、中国地方には活断層がほとんど見つかっていないながら地震活動が活発なエリアがあるといいます。

京都大学防災研究所地震災害研究センター 西村卓也 教授
「活断層というのは、断層のズレが地表に明瞭に現れて地形になって現れている所だが、山陰地方では地下に伏在していて地表に現れていない断層がいっぱいあると考えられている。特に最近の100年間では、マグニチュード7クラスの地震がかなりいっぱい起こっている。
また、微小地震の数を見ても、山陰地方は日本の中でも内陸地域では地震活動が高い場所で、広島県北部の三次市やその周辺も含まれる。そこでは活断層がなくても、周囲に比べて地震活動が高く、今後大きな地震が起こりやすい場所。」

もう一つの大地震リスク 芸予地震などのプレート内地震

さらに、広島における大地震のリスクを考える上で、もう一つ注意が必要なのが、沈み込む海側のプレート内部のやや深い所で起こるプレート内地震です。「芸予地震」などがこのタイプにあたります。

西村教授によると、安芸灘では、過去400年で7回、やや深い所で大きな地震があったとされています。そのうち1回は、江戸時代に起きた安政南海地震(1854年)の直後に起きましたが、その他については、南海トラフ地震の発生時期とは関係なく起こっているといいます。

今後30年以内に発生する確率が70~80%と非常に高い南海トラフ地震が大きく注目されがちですが、それ以外にも様々なタイプの地震リスクがあるといえます。

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