【能登半島地震】「元気出さんと」能登たくましく 物資届かず、自ら炊き出し

備蓄米を使ったおにぎりを受け取る被災者=3日午後0時40分、輪島市河井町

 地震発生から3日、奥能登までの道のりは通行可能になったとはいえ、到着には時間がかかり、被災地には支援物資が十分に行き渡っていない。そんな中、避難者が自ら炊き出しをしたり、営業を諦めた飲食店が食事を無償提供したりと、助け合いの輪が広がっている。優しくたくましく、能登の人々が必死に前を向こうとしている。(北國新聞社地震取材班)

 約300人が身を寄せる輪島市の鳳至公民館。停電と断水が続き、食事もままならない。住民たちは自宅からコメと水を持ち寄り、カセットコンロで炊いていた。朝昼兼用の食事は塩を振っただけのおにぎりが1個ずつ。前日は支援物資のおかゆなどでしのいだが、今回はレトルトのエビフライが食事に花を添えた。「ありがたい。これ食べて元気出さんとな」。極限状態でも気丈に語る男性がいた。

 この避難所には乳児もいる。ガスも貴重で、親御さんは粉ミルクを溶く湯を沸かしてもらうことすら申し訳なく思っているようだ。

 夫の実家へ帰省中に被災した大積智子(おおつみともこ)さん(59)は「とにかく食料と水が欲しい。みんなで助け合って持ちこたえるしかない」と話す。能登の人々の共助の精神が最後の命綱だ。

 輪島市河井町の重蔵神社は3日、避難生活を送る被災者のため、備蓄米を使ったおにぎりの炊き出しを行った。

 おにぎりを食べた輪島中3年の北村篤太郎さん(15)は、河井町の自宅が火事で全焼し、両親と3人で車中泊している。「飲み水がなくなりそうで、トイレも大変。めっちゃおいしかった」と笑顔を見せた。

  ●残った食材で炊き出し

 七尾市木町のダイニング&ギャラリー「ICOU(イコウ)」は木造の店舗が傾いて崩壊寸前に。ただ、冷蔵庫に入っていた食材が無事だったことから、市内の鮮魚店の協力を得てアオリイカ入りの炊き出しを実施した。

 口コミで人が集まって用意した250食がなくなり、店主の白藤菜都未さん(42)と兄・雄介さん(44)は「店は再開できないかもしれないが、苦しい時こそ助け合いたい」と笑顔で中華丼を配った。

  ●避難所で体調不良

 一方、避難生活が続く被災地では、体調不良を訴えて救急車で搬送される人が増えてきた。羽咋郡市広域圏事務組合消防本部によると、地震発生から3日午後6時までに管内の羽咋、志賀、宝達志水の1市2町の避難所で体調を崩して搬送された人は少なくとも21人。

 志賀町福浦公民館では午後3時ごろ、避難していた70代男性が体調不良を訴え、約20人に見守られながら救急車で搬送された。意識があり、命に別状はない。同公民館の避難者によると、男性は心臓に持病があり、「薬が足らん」と周囲に話していたという。

 松井正浩館長(70)は「水や食べ物はあるが、とにかく薬が足りない。高齢者が多いので、避難生活が続くとこの先が不安だ」と話した。

店舗が被害に遭っても炊き出しを行う飲食店関係者=3日正午、七尾市矢田新町

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