浜田雅功と小室哲哉の強力ビンタ「WOW WAR TONIGHT」新しい年にふさわしい90年代の名曲  H Jungle with tのメッセージは今も色褪せない!「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」

90年代の夢のコラボ、H Jungle with t

“夢のコラボ” という言葉がある。ありとあらゆるジャンルでコラボが氾濫している猫も杓子もコラボな現代においては、もはや大物同士のコラボもさほど珍しいことではなくなりつつあるが、1990年代はまだ “コラボ” という3文字に無邪気に胸を躍らせていたものだ。

中でも強烈なインパクトだったのは、なんといってもH Jungle with tを置いて他にはないだろう。「H」はダウンタウン浜田雅功、「t」は “TK”こと小室哲哉のこと。ジャンルの垣根を超えた超人気者同士のコラボは、ある意味で “夢のコラボ” の最終形といっても過言ではないほど、話題性、セールス共に圧倒的な結果を残したのだった。

そもそものきっかけは『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』のトーク中に、半ば冗談のように浜田が小室に曲制作をオファーしたことに端を発する。若い読者には説明が要るかもしれない。『HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP』とはフジテレビ系列の音楽番組で、司会のダウンタウンとゲストアーティストの軽妙なトークが人気を博し、2012年まで放送が続いた人気番組だ。

番組がスタートした1994年のダウンタウンは『ごっつええ感じ』『ガキの使いやあらへんで‼︎』を筆頭に冠番組がことごとく高視聴率を記録。また、松本人志の著書『遺書』が250万部の大ベストセラーになるなど、エンタメ界という単一のカテゴリでは括りきれないほど多岐にわたる活躍をみせ、若者を中心に社会現象的なムーブメントを巻き起こした。芸能人の長者番付で松本、浜田がワンツーを飾ったのは1995年の出来事だ。まさしく誇張抜きで「ダウンタウンの時代」だったといっても過言ではない。

音楽シーンの勢力図を塗り替えたTKサウンド

一方、音楽シーンでは “TK” を自称する小室哲哉によって生み出された音楽がメガヒットを連発。trf(現:TRF)の一連のヒットを皮切りに、アイドルの篠原涼子をボーカルに据えた「恋しさと せつなさと 心強さと」がダブルミリオンを記録するなど、爆発的な勢いでシーンを席巻していった。“TKサウンド” と称される打ち込みを多用した特徴的なダンスミュージックは、音楽シーンの勢力図を塗り替えてしまうほど売れに売れまくり、当時は毎週必ず1曲はヒットチャートにTKサウンドがランクインしていたような感覚がある。

小室は楽曲提供のみならず、プロモーションを含めたトータル的なプロデュースをおこなう点が画期的で、彼が手がけたアーティストは「小室ファミリー」と呼ばれ、音楽面だけではなくファッションから生き方に至るまで多大な影響を当時の若者たちに及ぼした。とりわけ安室奈美恵、華原朋美の2人は “小室ファミリー" を代表する存在であった。1990代は紛うことなき “小室哲哉の時代” だった。

累計230万枚という特大メガヒットとなった「WOW WAR TONIGHT〜時には起こせよムーヴメント」

ダウンタウンと小室哲哉ーー。平成一桁台の日本を席巻した時代の寵児たちは、まるでそれが運命であるかのように引き寄せられ、文字通り “夢のコラボ” を果たすことになった。 先述の『HEY!HEY!HEY!』出演時に小室は「100万枚売れる」と豪語。おそらくその時は浜田も半信半疑だったとは思うが、何気ない会話がきっかけとなり結成に至ったH Jungle with tのデビューシングル「WOW WAR TONIGHT〜時には起こせよムーヴメント」は、リリースされるや瞬く間に話題を呼び、初週だけで約40万枚の売り上げを記録(オリコン調べ)。その後も勢いを落とすことなく売れ続け、最終的には累計230万枚という特大メガヒットとなった。

それにしてもこの曲、聴けば聴くほど不思議な曲だ。それでいて色褪せない魅力に満ちている。まずジャンルからして “ジャングル” という、極めてマニアックなクラブミュージックを下敷きにしており、当時ほとんどの日本人にとって、初めて触れるサウンドだった。ちょうどこの時期、小室がジャングルにハマっていたようだが、お笑い芸人をボーカルに据えた楽曲で、この最先端のジャンルをフィーチャーしてしまうあたりにTKの尖ったセンスを感じる。

ダンスミュージックでありながら、歌詞のテイストはまるで歌謡曲

そして、さらに驚かされるのが歌詞の内容だ。なんとダンスミュージックでありながら、そのテイストはまるで歌謡曲。追われるような日々のなかで心身を擦り減らしながらも懸命に生きる全ての人々への泥くさい応援歌となっているのだ。歌い出しの「♪たまにはこうして肩を並べて飲んで ほんの少しだけ立ち止まってみたいよ」という箇所は、演歌の世界観でさえある。

ここに哀愁に満ちた浜田のボーカルが乗っかれば、もう感涙必至。

ささくれた心に容赦なく突き刺さる。日本酒をちびちび飲みながら聴くのもよいだろう。レゲエを起源に持つダンスミュージックを下敷きにしつつ、日本酒が似合うというのも唯一無二の本作の特色だ。

大人になってからあらためて聴くと、当時この曲がカラオケランキングでも上位をキープしていた理由が分かった気がする。場末のスナックで、深夜のカラオケBOXで、あるいは忘年会の二次会で、中高年のおじさん達が目頭を熱くしながら熱唱していた姿が目に浮かぶようだ。そして、まばらな拍手を聞き流しつつ自問自答するのだ。果たして自分はここまでの人間なのか? いや違う、まだまだやれるはずだ、と。

 自分で動き出さなきゃ
 何も変わらない夜に
 何かを叫んで自分を壊せ!

ーー 子どもの頃は気付かなかったが、今ならこのフレーズの意味がよく分かる。自分自身を奮い立たせ、努力し、走り続けること。容易ではないが、その先にこそ、“ムーヴメント” すなわち未だ見ぬ景色が待っているのだ。タイトルが “WOW WOW” ではなく、「WOW “WAR” TONIGHT」であることを含め、これほど力強くビンタを食らわしてくれる曲を私は知らない。

リリースから29年経ったが、そのメッセージは今も色褪せない。新しい年にふさわしい90年代の名曲中の名曲である。

カタリベ: 広瀬いくと

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