全国で児童虐待が相次ぐ中、県は新年度から、精神科医との連携体制の構築や一時保護所の増設といった児童相談所の機能強化を進める。中津市で昨年1月に小1女児が死亡したケースでは、実母が繰り返し児相に子育ての悩みを打ち明けていたものの、急激な精神状態の悪化をつかみきれなかった。精神科医からアドバイスを受ければ危険を察知できた可能性があったことを踏まえ、専門家に随時相談できる体制を整える方針。
県内は中央児相(大分市)と中津児相(中津市)があり、それぞれ精神科の嘱託医に相談する仕組みがある。虐待疑いなどで関与した親や子どもの精神状態が不安定な場合、週1回または隔週で医師の助言を受けている。
新年度からは定期相談に加え、オンラインを含めていつでもアドバイスが受けられるようにできないか検討する。「医学的な観点を対応に反映させたい」と県こども・家庭支援課。
両児相の児童虐待対応件数は増加傾向が続く。2022年度は過去最多の1786件で、10年前から1033件増えた。一時保護も22年度は300件に上った。
県内の一時保護所は14室で計22人を受け入れることができる。ただ、関係者は「ほぼ満室で入所しづらい状態が続いている」と説明する。
個室よりも相部屋の方が多く、互いに面識のない子ども同士が一緒に過ごすことでトラブルが生じることもある。県は個室を増やし、安心して過ごせる環境を整備する考え。夜間の緊急避難場所となる居室も別に設けたいという。
こうした対策の費用を新年度当初予算案に盛り込む方針。佐藤樹一郎知事は「中津で子どもが亡くなったことを教訓に、不幸な事件が再び起こらないようにと思っている。全ての子どもたちが健やかに成長できるよう全力を尽くす」と述べた。
<メモ>
中津市の事件は昨年1月17日未明、母子が暮らすアパートで起きた。長女=当時(7)=を窒息死させたとして、40代の母親が殺人の疑いで逮捕された。母親の首にも刃物で切ったような複数の傷があり、心中を図った可能性もある。大分地検中津支部は当時の精神状態を調べるため鑑定留置を実施。心神喪失の状態で刑事責任能力を問えないと判断し、同4月に不起訴処分にした。母親は事件前、児相などに20回以上、育児の悩みを打ち明けていた。