法改正で高まる「空き家」”放置リスク”… 「負の遺産を有益な資産」に転換するためのポイントと心構え

周辺環境に悪影響を及ぼすような管理の不十分な空き家にもペナルティが課されるように(弁護士JP)

令和5年12月13日から「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)」が改正されている。

なんのために? どんな影響が? まだピンとこない人も多いかもしれないが、住まいの問題は遅かれ早かれ、誰にとっても不可避といっていい。せめてアウトラインだけでもインプットしておけば、うろたえることなく、思わぬ不利益等を避けられ、場合によっては利益も享受できるかもしれない。

8割以上がいまだ対策に未着手の現状

改正空き家法を受けて所有者から相談があった割合は17.4%。これは、アットホーム株式会社(本社:東京都大田区 代表取締役社長:鶴森 康史)が、全国のアットホーム加盟店と、「アットホーム 空き家バンク」に参画している自治体を対象に「空き家・空き地」取引等に関する実態・意識調査を行った結果だ。

「空き家・空き地」の取引等に関する実態・意識調査(アットホーム調べ、n=904)

まだ施行間もないことを考えれば、妥当ともいえる結果だが、それでも8割以上がなにもしていないのが現状だ。

では、自治体よりもう少し身近な不動産会社ではどうなのか。同じ調査で、不動産会社に「空き家・空地」の取引が占める割合に対する回答では、1~10%が49.7%でほぼ半数を占めた。この数字からみても、空き家対策はまだ動きが微小であることが明確だ。

そもそもなぜ、空家法が改正されるのか。理由はズバリ、空き家が増え続けているからだ。空き家が増えれば治安が悪化し、人が離れ、景観が乱れる。ならばと再開発をするにも、長く放置された空き家の場合、持ち主へのコンタクトも一苦労だ。

総務省は5年ごとに「住宅・土地統計調査」を実施している。それによると、平成30年時点で空き家は全国に838万9000戸。これは前回調査の平成25年から3.6%の増加だ。今後、高齢化は進行するため、このペースはさらに加速する。

増え続ける空き家。もはや対策は待ったなし

もはや国にとって、空き家対策は待ったなしなのだ。法改正の内容をみれば、その切実さが如実に透けてくる。ポイントは主に次の3つだ。

① 「管理不全空き家」への対応強化
② 「特定空き家への勧告・命令等の円滑化
③ 「空き家等活用促進区域」制度の創設

順番にみていこう。

①は、空き家放置に対する強化に他ならない。これまでは放置した空き家の中でも、倒壊危機や不法投棄の温床となっているなど近隣に悪影響を及ぼす空家を「特定空家」とし、命令に応じない場合は行政代執行も可能とされていた。特例措置の対象外となり固定資産税も最大6倍に。
この適用範囲が、管理不全の空き家にまで拡大される。つまり、「特定空き家」の予備軍にも、同様の厳しい対応をするようになったのだ。

②は特定空き家への勧告・命令等を円滑に行うため、市区町村長に特定空き家の所有者に対する報告徴収権を付与し、特定空き家の状況や所有者の意向を把握しやすくする措置で、適切な対応を講じやすくしている。

③は市区町村に対し、空き家の活用を促進するために、空き家等活用促進区域を指定することができるもの。「空き家等活用促進区域」では、以下の措置を講じることができる。

  • 空き家等の活用に関する情報の提供
  • 空き家等の活用に関する相談や支援
  • 空き家等の活用に関する助成

このように、今回の法改正では、これまでは放置されがちだった空き家に対し、より踏み込んだ対応を可能とし、その上で、その後の活用までフォローする体制も用意。再開発のネックとなっていた、”放置空き家”に手が打てる環境を整備し、よりよいまちづくりを円滑に進めていく狙いが鮮明になってくるはずだ。

各自治体にとって、空き家は新しい何かを生み出すものでなく、現状では逆に”トラブル”を誘発しかねない負の資産。だからこそ、できるだけ円滑に対応したいという思惑がある。なにより、空き家をうまく再生・再利用できれば、まちの魅力が増し、新たな住人を呼び込むことにもつながる。

なにをすればいいのか、どんな対策があるのか

では、空き家対策を迫られている当事者はどうすればいいのか。例えば、東京都はこうした不安や心配に対する受け皿を豊富に用意している。

東京都は空き家対策のサポートに力を入れている(東京都空き家情報サイトより:https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/akiya:)

その拠点となるのが「東京都 空き家情報サイト」だ。空き家の適正管理・有効活用・発生抑制等に役立つ情報を随時発信。何から手をつければいいのかわからないレベルの都民に対し、手を差し伸べている。

民間の事業者との連携も積極的に行い、取り組み事例をタイムリーに報告。事業者に対する空き家活用の情報共有をすることで、空き家活用のすそ野を広げている。 不動産、建築、法律周りの専門家集団による相談窓口も開設し、都内の空き家所有者に対して悩みや課題を受け止め、空き家のより有益な活用支援を促している。

空き家法改正はむしろ、「チャンスとすべし」と弁護士が提案する理由

「空き家法改正は、固定資産の増加がクローズアップされるなど、負の側面が強い印象に捉えられがちですが、決してそんなことはないんです」。

こう語るのは不動産や相続問題に詳しい山本倫子弁護士だ。「改正にはいくつかポイントがありますが、目を向けるべきひとつが、『空き家等活用促進区域』制度の創設です。これによって、指定地域の接道規制や用途規制の合理化等の措置を講じることができるとされていますので、空き家の活用が促進されると考えられます」(山本弁護士)。

空き家の立地が、中心市街地であれば商店街の店舗としたり、歴史的な景観に位置するのであれば、周囲と調和する形で例えばカフェやレストランなど観光施設に改装したりするなどの道も開け、新たな収益源として再利用も可能になるということだ。

空き家の活用法を考え、資産価値を高めることで争族を「創続」へ

「空き家問題は、面倒な資産の押し付け合いのようになりがちですが、相続する側にとっては一時期は住居として住んだ愛着ある場所であり、ご両親の思いが詰まった大切な場所。そこに新たな価値を生み出すことを残った親族が知恵を巡らせることは、相続人にとっての利益になりますし、被相続人も喜ぶでしょう。家自体も喜んでくれるのではないでしょうか」(山本弁護士)。

法改正によって、これまではともすれば負の遺産処理にみられがちだった空き家対策が、考えようによっては、磨けば光る資産になる道ができたということだ。「だからこそ」と山本弁護士は続ける。

「家の相続は簡単ではありません。家の所有者や家族が家を空き家にしないように早めに相談しておくことが必要です。そのためには、家族同士がいい関係を維持していることはもちろん、家の所有者も早い段階で遺言書を作成し、家は誰が相続するかなどを明確にしておくことが大事です。相続を放棄するにしても、家だけというわけにはいきません。相続をするとしても、早い段階で自分にとって家の価値や必要性を判断しておくことが賢明です」(同)。

その上で、「『固定資産税が増額される』という部分だけを見れば、負担に感じるかもしれませんが、それよりもまず、空き家をどのように活用できるか、売却も選択肢の一つとして考えましょう。空き家の”資産価値”を算出し、その時にプラスかマイナスかを判断すればいいんです。増税を気にして、空き家の対処を間違うのはもったいない話です」と山本弁護士は、空き家の有効活用を推奨した。

周辺環境悪化のトラブルの種にならないように…。空き家対策にはどことなく、”残務処理”のようなイメージが漂うが決してそんなことはない。むしろ、相続と併せ、親族ら相続に関わる人と知恵を巡らせ、資産価値を高める機会へ。そうすることで、骨肉の “争族”が一転、絆を深める「創続」へと転換することになる。

© 弁護士JP株式会社