社説:暮らしと経済 好循環向け人への投資を

 私たちの暮らしは、今年こそ明るい兆しが見えるだろうか。

 食品やサービスの歴史的な値上げラッシュは、家計を圧迫し続けている。昨年の食品購入の負担増は月4千円との試算もあり、個人消費は冷え込むばかりである。

 背景にあるのは国際紛争に伴うエネルギー高と、円安による原材料高騰だ。今年前半の食品の値上げ品目数は昨年ほどではないものの、4月までに1500品目(昨年11月末時点)に上るとみられる。

 ただ、内閣府が昨年末、2024年度の所得増加率は前年度比3.8%となり、物価上昇率の2.5%を上回るとの見通しを発表した。賃上げや1人当たり4万円の定額減税で、所得が押し上げられると見込んだ。

 岸田文雄首相は、物価上昇を「経済の好循環」につなげる青写真を描くが、その成否は国民所得増の広がりにかかる。政府は予算や税制で、事業者に対する賃上げ支援策を並べるが、中小企業にまで効果が波及するのか。企業努力も問われよう。

 日銀は賃上げ状況を見極め、金融政策の正常化に向けて動く可能性がある。緩和の縮小は金利上昇や景気に影響するだけに、昨春就任した植田和男総裁の手腕が試される。

 国際社会の先行きは不透明な上、防衛増税など先送りされた負担増を家計は見据えている。首相が唐突に打ち出した定額減税は、当初予算が成立すれば今年6月から実施される。借金頼みの一時的な「還元」が、個人消費の喚起につながるかは甚だ心もとない。

 新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、昨春来の急激な需要回復によって、各業界が直面するのが人手不足だ。

 帝国データバンクによると、昨年1月~10月までの人手不足による倒産件数は、調査を開始した14年以降で年間の過去最多を更新したという。

 京都ではタクシーや宿泊施設など働き手が戻らず、観光産業の足かせとなっている。

 建設業、物流・運送業、勤務医では、時間外労働の規制が強化される「2024年問題」も4月に迫る。慢性的な不足にあえぐ介護、保育の担い手とともに、労働環境のさらなる改善は欠かせない。

 人口急減と少子高齢化を受けて支え手が減る中、社会保障制度のほころびは大きくなる一方といえよう。首相は「異次元」の少子化対策を予算化したが、内容も財源も踏み込み不足が否めない。医療保険に上乗せするという生煮えの「支援金」制度を含め、今月下旬に開く通常国会で徹底した議論を求めたい。

 24年度の当初予算案は一般会計の歳出総額で、過去2番目の112兆円とした。3割を国債(借金)で補う不安定な構造が続く。コロナ禍の非常時で膨らんだ歳出を「平時」に戻す方針を徹底しなければならない。

 低金利のもと日銀が国債を買い続けることを前提とした野放図な「積極財政」は、もはや通用しない。1千兆円の債務は経済や後世代の大きなリスクだと政府、自民党は自覚すべきだ。

© 株式会社京都新聞社