原点に戻って前に進め!ブルーハーツ「夢」新しい年にふさわしい90年代の名曲  ブルーハーツの名曲「夢」を聴いて前向きに頑張っていこう!

人間の持つ見えない力の根源は “夢”

2024年の元旦は穏やかではなかった。震度7を観測、津波のアラートが鳴り止まなかった能登半島地震、そして2日には羽田空港の炎上事故。新年のあいさつも憚られてしまうスタートになってしまった。もちろん、亡くなられた方もいらっしゃるので、哀悼の意を先立てなくてはいけない。確かに被災地の状況は深刻だ。しかし、これだけの大災害、大事故にも関わらず、被害を可能な限り食い止めたという見方もあるだろう。そこには、やはり人間が持つ見えない力、見えない勇気、相手を思いやる気持ちが一丸となった結果だったと思う。

僕は、人間の持つ見えない力の根源は “夢” だと思っている。“夢” とはつまり、何かに向かう力だ。自分に何ができるかを見極め、そこに向かうために何をすべきか冷静に分析する力だとも思っている。それがあれば、人間は未曾有の出来事に遭遇した時も、最大限の方策が生まれるのではないだろうか。

そんな思いを馳せながら、“新しい年にふさわしい90年代の名曲” としてザ・ブルーハーツ(以下、ブルーハーツ)の「夢」を紹介したい。1992年というバンドの熟成期にリリースされながら、彼らが初期に兼ね備えていた刹那な瞬発力を兼ね備えた名曲だと言えるだろう。

90年代に入り大きな転換期を迎えたブルーハーツ

90年代の幕開けと共にブルーハーツは大きな転換期を迎えた。80年代に残した3枚のアルバムの軌跡は初期ブルーハーツと言えるだろう。アマチュア時代の集大成とも言えるファーストアルバム『THE BLUE HEARTS』、プロデューサーに佐久間正英を迎え、前作を踏襲しながらバブルガムのようなカラフルなポップチューンを前面に打ち出したセカンドアルバム『YOUNG AND PRETTY』、サードアルバム『TRAIN-TRAIN』ではブルースからの影響も垣間見せながらビートを効かせた当時の彼ららしい作品を作り上げた。

しかし、彼らは、初期ブルーハーツにここで終止符を打つ。レコード会社を移籍し、1990年にリリースされた『BUST WASTE HIP』ではローリング・ストーンズの影響も垣間見られる名曲「イメージ」を1曲目に収録し、これまでのイメージを一新させた。翌年にリリースされた『HIGH KICKS』では、ロックンロールの瞬発力に頼らない、肩の力を抜きながら、チルアウトした印象の強いアルバムだった。地下のライブハウスで産声をあげたブルーハーツは、初期の刹那的なイメージを内包させたまま、ミュージシャンとしての圧倒的な深化を伴い、次のフェーズへ移行していた。

92年にリリースされたシングル「夢」

しかし、『HIGH KICKS』から1年以上のインターバルを置きリリースされた『STICK OUT』は初期衝動をみなぎらせたようなエナジーに溢れていた。1992年10月25日にリリースされた彼らのメジャー10枚目のシングル「夢」はこの『STICK OUT』に収録されている。

「夢」のソングライターは真島昌利。

 あれも欲しい これも欲しい
 もっと欲しい もっともっと欲しい

―― という直情的なリリックから始まる。『STICK OUT』というアルバムを象徴するように瞬発力がみなぎっている。初期の「未来は僕等の手の中」や「終わらない歌」に匹敵するような躍動感を感じる。それなのに、イントロのブギウギっぽいピアノの入り方など、曲の構成からは、彼らが広げた音楽地図を俯瞰することができるし、バンドとしてのひとつの到達点ではないかと思えるほど完成度が高い。

原点に戻りながら前に進んだブルーハーツ

到達点でありながら、いや、だからこそ、真島の紡いだ言葉は自分たちの原点を振り返っているようにも感じる。

 家から遠く離れても
 なんとかやっていける
 暗い夜に一人でも 夢見心地でいるよ

この部分は、デビューから随分と時間が経ち、悩み立ち止まってしまった時でも原点に帰れば前に進めるーー という隠喩だと僕は捉えている。

原点に戻りながら前に進むというのは、ミュージシャンならずとも、全ての人に共通する壁にぶち当たった時の対処法だと思う。現状に振り回されるのではなく、自分のルーツはどこにあったのか、本当は何をやりたかったのか、そんなことを思い起こせば、現在の自分の立ち位置が明確になってくると思う。

さらに真島のリリックはこう続く。

 夢がかなう その日まで
 夢見心地でいるよ

―― と。夢は、叶えてからが本番だということだろう。つまり、叶えるより継続の方が困難だということだ。ブルーハーツがデビューした1987年はバンドブームの最中だった。数多くのバンドがメジャーデビューの切符を手にしながら、バンドを深化させ、継続させ、転がり続けているのは一握りだ。この中で生き残るには、相当の覚悟と変化を厭わない多様性を携えなければならない。そして、これと同じくらい大事なのが、夢見心地でいた日々を忘れずに、いつでも原点に戻れるということだろう。

2024年のスタートは、決してポジティブな幸先の良いものではなくなってしまった。だからこそ、原点に戻ることが大切だと「夢」は教えてくれている。

 あれもしたい これもしたい
 もっとしたい もっともっとしたい

―― そう思っていた若き日の自分の気持ちを思い出すことで、自分に今何が出来るかが明確になってくるはずだ。こんな年だからこそ、「夢」を忘れずに前を向いていきたい。

カタリベ: 本田隆

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