旬を食べよう〜東海地方の伝統野菜〜【大高菜】愛知県尾張地方(名古屋市緑区大高町)

「名古屋市農業センター delaふぁーむ」内の産直店で購入した「大高菜」

日本列島のほぼ真ん中辺りに位置する東海地方は、古くからモノやヒトの往来が盛んで、豊かな自然と過ごしやすい気候に恵まれていることもあり、野菜づくりが盛んな地でした。

そんな東海地方には、数々の伝統野菜が地産地消されており、野菜本来の「旬」や食文化を教えてくれる貴重な存在として親しまれています。

「名古屋市農業センター delaふぁーむ」内の産直店で購入した「大高菜」

今月は、「あいちの伝統野菜」に選定されている「大高菜」(写真)をフカボリします。

江戸時代からの名産

300年以上前から大高地区(現・名古屋市緑区大高町)の名産として知られ、大切に守り育てられてきた大高菜。

アブラナ科の植物で、見た目は野沢菜に似ていますが、野沢菜より繊維が少なくやわらかいのが特徴で、餅菜や煮物、漬け菜として食べられてきました。

地元の誇りとして、名古屋市立大高中学校の校章のデザインにも採用されています。

『尾張名所図会』(1880年出版)内の「大高菜」記述部分には、丈が高く、わらで巻いて天秤棒にぶら下げて運搬する様子が描かれています 〈岡田啓(文園), 野口道直(梅居)著『尾張名所図会』前編 巻6知多郡,片野東四郎,明13. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/764885〉

大高菜の丈については、『尾張名所図会』に「二三尺より四尺餘に及ぶものあり」とあります。一尺を約30センチとして計算すると、大体60〜90センチで、120センチ以上になるものもあったということです。

大高菜(下=70センチ弱)と、よく流通している小松菜(上=約35センチ) 大高菜を初めて見た感想は「でかっ」でした

また大正8(1919)年に出版された『愛知の蔬菜』の大高菜の項目には、以下のような記述(意訳)があります。

・享保3(1698)年に大高村の庄屋が鳴海陣屋代官に『大高菜作方覚』を上納
・丈は2尺〜3尺以上
・用途は主に漬物や煮物
・葉、茎、根共に柔らかく風味可(佳?)良
・霜が2〜3回降りたころから収穫を始める
・根が付いたままわらで包んで結束して運搬
・市場にはあまり出回らず、自家用または進物用に高値で売買
・当地産のものは著しく優美で、進物として東京地方に送られることもある(当地産のものは種も高値で売買される)

使いでがあって食味も良い大高菜ですが、草丈が高く折れやすいため現代の流通には向かず、近年はほとんどが自家用で、実物を入手できる機会はほとんどありません。

入手方法としては、JAなごや大高支店朝市(12〜3月)やイベントでの販売などですが、共にごく少量で、必ず入手できるというわけではないそうです。

プランターでも比較的簡単に栽培できるとのことで、緑区役所では秋に種の無料配布(期間・数量限定)も行っているそうなので、自家栽培に挑戦してみるのもいいかもしれません。

※今冬は「名古屋市農業センター delaふぁーむ」でも栽培していると聞き、同センター内の産直店にて実物を入手できましたが、毎年作っているわけではないとのこと。入手したい場合は事前に問い合わせのうえ、予約した方が良いでしょう。

「名古屋市農業センター delaふぁーむ」の大高菜畑

「大高菜」は、地元(愛知県)由来で、古く(江戸時代)から栽培され、現在でも種や生産物が入手できるという理由から、2002年に「あいちの伝統野菜」に選定されています。
※旬は12〜1月とされます。
※愛知の伝統野菜の紹介ページに「餅菜として利用される」とあります。

彩り、香り、ほろ苦さが魅力

古くから大高の地で作られ、進物用として重宝されながらあまり流通に乗らなかった「大高菜」とは、一体どんな味わいの野菜なのでしょうか。

いくつか調理例をご紹介します。

まずは「餅菜」として、お雑煮です。出汁をきかせたすまし汁で、油揚げ、豚肉と一緒に煮ました。

彩りと鼻に抜ける香り、舌触りがよい大高菜は、煮崩れないのにやわらかくて「餅菜」の別名に違わぬ食味。油揚げと豚肉を合わせることによって、栄養と味のバランスがよくなり、食べ応えもあります。

次に、名古屋市緑区役所のホームページ内の「大高菜」紹介ページに掲載されていたレシピを参考に、「辛子みそ和え」を作ってみました。

ゆでた大高菜を甘めの辛子みそで和えた「辛子みそ和え」。レシピでは「摘み菜」を使うとのことでしたが、普通の大高菜の中心部に近い若めの葉を使用しました。

まず半分ぐらいに切ってからゆでて水にとって冷まし、水気をしぼってから3〜4センチの長さに切ります。合わせみそ(お好みでいいと思います、レシピでは白味噌)に砂糖とみりん、練り辛子を混ぜ合わせたタレで和えて出来上がり。

やわらかく若干ほろ苦い大高菜と甘めの辛子みそがマッチして、箸がどんどん進みます。

細切り肉、卵と炒め合わせた「甘辛炒めの卵とじ」。こちらは普段、大根菜で作っている常備菜ですが、大高菜に置き換えても美味しいのではと思って作ってみました。適当に細く切った豚肉と1センチほどの長さにざく切りにした大高菜を炒め、砂糖と酒、みりん、しょうゆで味付けし、最後に卵でとじるだけです。

見た目は大根菜で作るものと同じような仕上がりになりましたが、若干歯ごたえがやわらかく深い味わいもあり、少し大人の味のように感じました。

新年を迎えるタイミングで、300年以上の時の流れに思いを馳せながら、その昔、先達が舌鼓を打った「大高菜」を味わってみませんか。

※掲載情報は公開日時点のものとなります

© 中日新聞社