「チームとしての夢を叶えることで、個人の夢も叶った」FC町田ゼルビア稲葉修土と夢の伝道師が語る『夢を掴む人の共通点』

「今季チームがうまくいった要因の一つは、チームとしての夢の上にそれぞれの個人の夢が存在していたこと」。2023シーズンのJ2を制してJ1昇格を達成したFC町田ゼルビアMF稲葉修土は2023年の戦いをこう振り返った。シンガポールリーグからJ3、J2と着実に夢をかなえステップアップしてきた彼は、夢を原動力にして邁進してきたフットボーラーの一人である。

「この対談を聞いた後、誰でもすぐに夢に向かって歩み始めることができる」。稲葉の話を聞き、こう語るのは人気二郎系ラーメン店 『夢を語れ』創業者の西岡津世志氏。自らが名づけた店名のように夢を語り続け、かなえ、多くの夢を後押ししてきた、まさに“夢の伝道師”。

サッカーを切り口に人生に役立つ新たな視点を届ける共育メディア『Footballcoach』が主催した彼らの対談から、夢をかなえ続ける人の共通点を探る。

(構成=多久島皓太[Footballcoachメディア編集長]、写真=アフロ)

夢は、質より量を追いかけろ

稲葉:サッカーをやっていて「センスあるよね」って言葉をよく聞きます。いろいろなカテゴリーでやってきて、天才と言われている選手で長く活躍している人たちの共通点は『才能を生かすための思考を止めない』こと。そういう選手が残っていく世界だと思っています。その中で僕は量からしか質は生まれないと思っているので、夢に関しても同じ認識でいます。

西岡:僕も稲葉さんの考えに、すごく共感できます。その中で、夢の質より量を追いかけるのも才能の一つだと思っているのですが、稲葉さんが一生懸命夢を追い続ける理由はなんですか?

稲葉:修土(しゅうと)という名前が、夢をかなえ続ける力になってきたのかもしれません。父親もサッカーの審判をしていましたし、「しゅうとなら、サッカーがうまくないとダメやろ」と自分の使命のように言い聞かせて頑張ってこれたのもあると思います。西岡さんのことをネットで調べさせていただいたんですが、海外でお店を出す夢はどこから出てきたんですか?

西岡:僕の名前の津世志(つよし)も、父親が「世界に羽ばたいてほしい」という思いのもとつけてくれたと聞きました。そういった意味では、稲葉さんと同じような人生ですよね。芸人として活動していた当時、相方に連れられて食べたラーメンに衝撃を覚え、「ラーメンを作れるようになりたい」「自分の店を持ちたい」「この味をもっと多くの人に教えたい」「海外で店を出したい」と少しずつ大きな夢が湧いてきて、すべてかなえていったんです。まずは近いところの夢から少しずつかなえていったことで、結果的に海外で店を出す夢が湧いてきて、かなえました。

稲葉と西岡が口をそろえた、『夢は質より量である』。大きな夢を追い求めることももちろん素晴らしいが、まずは身近にある夢からかなえ、着実に大きな夢を得て、それを原動力として彼らは歩みを続けているのだ。

夢は成長とともに具体的になる

この対談は「夢に関する5つの質問」にそれぞれがYES・NOで答える形式からスタートしたが、「『夢は成長とともに具体的になる』。この質問だけは最後まで悩んだ」と稲葉が言うように、ここでは両者の思考がはっきり浮かび上がった。

稲葉:夢は、遠くにあるものだというイメージが強いです。5歳から大学生まで、僕の夢はずっと「サッカー選手になること」でした。シンガポールでプロサッカー選手の夢をかなえた後、「次はJリーグにいきたい」という夢が出てきて、「J3にいきたい」「J2にいきたい」とステップアップしてきました。人生の中で一番大きな夢をずっと追いかけているというよりは、あれもこれもといったいろんな夢が湧いてきます。夢をかなえた瞬間はうれしさを感じるのですが、また次の夢をかなえるために新たな気持ちで向かっていくんです。この捉え方でいくと、“NO”なのかなと。

西岡:稲葉さんの話を聞いて、それは夢が具体的になる前にかなえることができている証拠だと思いました。僕が“YES”と答えた理由は、夢に向かって実行するたびにその夢の解像度が上がっていくというイメージです。「海外で店を出したい」と常々夢を語っている時も、最初はハワイに店を出すつもりで視察にも行きましたが、心が躍らなくて。結果的に一番心が躍ったボストンに店を出したという経緯です。稲葉さんはシンガポールに行った時、ワクワクしましたか?

稲葉:実際ワクワクしましたね、その時は。

西岡:そのワクワクが夢を具体的にしていったからこそ、着実にかなえてこられたんですね。

立正大淞南高校で選手権に2度出場、大学も名門・福岡大学に進み着実にプロへの階段を登っていった稲葉だが、Jクラブからオファーが届かず、一時は内定先への就職を考えていたという。そこで舞い降りた、シンガポールでプロになるという道。大学卒業と同時に単身シンガポールに渡るという決断も、「日本でプロになるため」ではなく、「大好きなサッカーを続けたい」という目の前の夢をまずはかなえたかったからなのかもしれない。

夢で溢れる国にするために必要な“夢の再定義”

西岡:「夢=将来就きたい理想の職業」という漠然としたイメージが世間にはあると思っています。このままだと、大人になるほどその職業に就けていなかったらそれ以上の夢を持つことができない人生になってしまうんです。だからこそ、夢の定義を「今日何が食べたい」とか「明日何をしたい」といったように広げていくべきです。ここから湧いて出てくるもの、つまりwantは全部夢。これだとみんな持っているじゃないですか(笑)。

稲葉:西岡さんのおっしゃる夢の再定義には、僕もすごく共感できます。お会いする大人の方とも「夢はあるんですか?」と言う話をよくしますが、夢がある大人はめちゃくちゃかっこいいんですよ。そういう人がもっと日本にも増えてほしいと思いますね。僕は毎日夢を持って生きているのがとても幸せです。

西岡:「やりたいことがない」「夢がない」と思っている方にはぜひ、「今日何を食べたいのか?」からかなえていってほしいですね。小学生レベルの夢をかなえることのできる人は、自ずと夢のレベルが上がっていきますから。

チームとしての夢の上に個人の夢が存在するチームは強い

稲葉:今季(2023年)の町田は、チームの雰囲気がそのまま結果として色濃く出たシーズンでした。チームの夢を達成したことによって、選手それぞれの夢もかなえることができるようなチームだったんです。「J1でプレーしたい」「日本代表でプレーしたい」「海外でプレーしたい」と思っている選手たちがほぼ全員。それが試合に出れなくても、腐ることなく全員で高め合えたことにつながり、チームの夢と個人の夢の両方をかなえることができたチームでしたね。

西岡:なるほど。とてもいいチームですね。僕もチームを持っているのでわかりますが、監督や影響力のある選手など必ず夢を語る、リーダーシップを発揮しているキーパーソンがいると思いますよ。チームとしてというよりも、個人個人が全力で頑張れる環境があるチームが素晴らしい結果を出せると思います。

それぞれが抱く夢「来年J1で試合に出て…」

西岡:今僕が一番やりたいことは、「世界一おいしいビールを作ること」。ビールだと、飲めばみんなが夢を語るでしょ?(笑) 夢を語りたくなるビールを作ることが僕の夢ですね。

稲葉:まさかの角度でしたね(笑)。僕の夢は「J1で試合に出てたくさんの人を勇気づける」ことです。「稲葉のプレーを見て元気出た!」と言っていただけることもうれしいですが、「稲葉の人間性が好き!」とパーソナリティを含めて応援していただくことは何よりもうれしいです。カテゴリーが上がるごとに応援してくださる方々が増えていっているのも感じているので、そういった方々の応援にしっかり応えていけるように準備したいと思います。 夢を追い求め、それを原動力に変えながら歩んできた両氏。漠然とした将来に思いを馳せることもいいが、まずは自らの身近なwantを実現していくことが、日本を夢で溢れる国にする近道なのかもしれない。

本記事はFootballcoachで開催された対談より一部抜粋

<了>

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[PROFILE]
稲葉修土(いなば・しゅうと) 1993年6月29日生まれ、大阪府出身。プロサッカー選手。FC町田ゼルビア所属。立正大淞南高校、福岡大学を経て一度はプロの夢を諦めかけたが、アルビレックス新潟シンガポールでプロキャリアをスタート。ブラウブリッツ秋田、カターレ富山を経て2023年、FC町田ゼルビアに加入。現役Jリーガーとしてプレーしながら、合同会社 ONE STEPを設立し、代表を務める。

[PROFILE]
西岡津世志(にしおか・つよし) 1979年9月8日生まれ、滋賀県出身。社会起業家。高校卒業後、東京でお笑い芸人を目指しながらラーメン店で修業。2006年、独立して京都一乗寺に「ラーメン荘 夢を語れ」を創業。2012年、ボストンで「Yume Wo Katare」を開業する。2018年に帰国し、国内外に23店舗を展開する。

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