「クラブは上げて下ろすだけ」U-25世代スイングセルフ解説/久常涼

久常涼が自身のスイングを語る(撮影/有原裕晶)

中島啓太、金谷拓実、蝉川泰果、平田憲聖…と2023年の国内男子ツアーは若手の活躍が目覚ましかった。互いを互いに刺激し合う“強い世代”。彼らはどんな経歴でゴルフをしてきたのか、どんなスイングで戦っているのか。「U-25世代」の選手に自身のスイングを解説してもらう。(取材・構成/服部謙二郎)

“スター街道”をまっしぐらに駆け上る

コーナーの6回目は、岡山出身の久常涼(21歳)だ。プロ転向初年度の2021年に下部ABEMAツアーで年間3勝して賞金王に輝き、レギュラーツアーで翌年の賞金シードを獲得。22年秋に欧州ツアーの予選会を通過して出場権を獲得すると、23年9月の「カズーオープンdeフランス」で初優勝を飾った。7度のトップ10入りを記録したシーズンの年間ポイントレースで17位に入り、24年のPGAツアー出場権も手に。プロ転向から3年で世界最高峰の舞台で戦う切符をつかんだのは、まさに快挙と言える。

それでは久常のスイングを紐解いていこう。本人に話を聞こうとすると、「スイングよく分かんないっすよね」と驚きの返答。欧州ツアー23年シーズンのフェアウェイキープ率は7位と、海外の猛者たちにも引けを取らないショットの精度を持っているはずなのに…。果たしてその発言の真意は?

ドロー?フェード?「出たとこ勝負」

平均300ydのドライバースイング(撮影/有原裕晶)

―日本で戦っている時はドローヒッターのイメージが強かったですが、欧州ツアーでは、どんな弾道を意識していましたか?ドライバーショットの精度の高さが光っていましたが…。
(弾道に関しては)自分でも分からないんですよね。もうほんと、毎日、出たとこ勝負。ドローもフェードも日替わりでしたから。

―スタート前の練習場で「きょうドローが出やすいからドローで行こう」という感じですか?

そうです。ストレートに球が出て、最終的にどっちかには曲がるので、その時々でドローかフェードかを決めていました。

―スイングに悩んだ時期は?

スイングのことがよく分からないんで、悩む必要がないというか…。練習場でも球を(多く)打たないんですよね。あまり練習も得意じゃないんで(笑)。

―スイング動画を撮影して、自分でチェックすることは?

自分のスイングを見たことがほとんどない。本当に(調子が)悪い時はやるんでしょうけど、そこまで深刻に考えていないんです。スイングに関しては、もう本当にクラブを「上げて下ろす」だけ。それしか考えないようにしています。

自分のスイングはほとんど見ないと言い切る久常(撮影/有原裕晶)

―それでも何か決めごとはないんですか?

うーん…、やっぱりテンポは意識しますかね。スイング中のリズムは大事だと思っています。(リズムが)速いなら速いでいいですし、遅いなら遅くてもいい。流れるように打てるのがいいかな。やっぱり悪い時はリズムが速くなってしまうので。

―打ち急いでしまう?

そうですね。なんか急に脈が上がっちゃうじゃないけど、リズムが速くなって振り遅れたりします。

―脈を落ち着かせるようなコツは?

僕も探しています。あるのならそのコツは聞いてみたいです(笑)。

―考えずに振ったほうがうまくいくと

僕はそう思っています。ざっくりし過ぎていますけど、テンポだけ気にしてクラブを上げて下ろすだけ。でも、ざっくりのほうがいいんじゃないのかなと今は思っています。

限りなくストレートで最後にどちらかに曲がる弾道(撮影/有原裕晶)

―スイングコーチをつけようと思ったことは?

ないですね。

―ロジカルに突き詰めていくよりは、深く考えないほうがいろんなコースに対応できる?

そこは分からないですね。スイングを考えないことでうまく対応できていたのかどうかは、いまだに分かっていないかな。

―欧州の選手も同じようなタイプの人が多い?

まぁ、半々ですかね。練習場でスイングをいっぱい撮ったりして色々している人もいますし、全くそういうのをやらない人もいる。僕は後者ですけど、結構タイプは別れますよね。

―3年前にはトップで右手首の角度を「出前持ちに」(手のひらを天井に向ける)と話していた

確かにそんなのやっていましたね(笑)。その時ちょっとハマっていただけかも。いまは何も考えないことがマイスタイルですから。

ダウンスイングの途中までは力を抜いておくこと

とにかくリズムよく振り切ることが大事と久常(撮影/有原裕晶)

―スイングの秘訣をアマチュアにアドバイスするとしたら?

やっぱりリズム感かな。スイングのテンポはパーソナリティでもあるから、その速さは人によるので自分に合った振りやすいテンポを見つけてほしいです。速い人が遅くしてもダメだし、その逆もダメ。見つけた自分のテンポを一定にするには、力感が大事で、いい意味での抜け感を持ってほしい。力が入っているとどうしてもテンポが変わってきちゃいますから。

―抜け感とは?

やっぱり上半身がガチガチにならない方がいいということ。 スイング中はいい意味で力を抜いています。ずっと力が入っている状態だと良い結果にはならないですから。ただし、インパクトまで全く力を入れないのではなくて、力を入れるポイントがあって、ここ(ハーフウェイダウン)でガって力を入れるのはいいと思います。

―ダウンスイングの途中までは力を抜き、そこから一気に力を入れていく?

それでいいんじゃないかなと思います。ダウンスイングの力を入れるポイントを自分で探して、そのスピード感とかを見つけてほしい。さらにそれをスイング全体の良いリズムのなかでできるようになれればいいと思います。

写真のようにハーフウェイダウンから力を込めていく(撮影/有原裕晶)

◇◇◇

話を聞く限り、久常はスイングに関して「何も考えていない」のではなく、「あえて深く考えない」ようにしているのだろう。確かに、自分のスイング動画を見れば気にしてもないような部分まで見えてくるだろうし、そうなるとスイングをいじりたくなるもの。そこから沼にハマり、迷走するプレーヤーをこれまで数多く見てきた。

上げて下ろすだけ――。いかにもシンプルなこの考え方は、海外で久常がたどり着いた境地なのかもしれない。なんともたくましい21歳。来週ハワイで行われるPGAツアー「ソニーオープン」から新しいステージでの戦いが始まるが、「なんかやってくれそう」な予感がプンプンする。

戦いの舞台はPGAへ。“敢えて考えないスタイル”で世界最高峰ツアーに挑む(撮影/有原裕晶)

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