ニューヨークでM1.7の弱い地震「爆発か!」一時騒然

柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・1月2日明け方、NY市クイーンズ・アストリア地区でM1.7の地震が発生。

・アメリカ東海岸では地震の経験が皆無である人々も多い。

・「ルーズベルト島の地下施設で爆発か」と大騒ぎになった。

日本での波乱の年明けを横目に見ながら、NYでも新年を迎えることができた。

アメリカでは、正月休みなるものは存在せず、在米日本人は毎年ブーブー文句をたれながら各自職場へ向かう。学校も2日からスタートで、冬休みボケした我が家の子供達の抗議にかまっていられる暇はない。

というわけで、アメリカはもう通常運転。

正月気分も全くない1月2日の朝であったのだが・・・・

習慣でテレビをつけると「ルーズベルト島(マンハッタンの横、イーストリバーにある多くの人が住む島)の地下施設で爆発か」というニュースが飛び込んできた。

高層ビルが大振動、住民からの通報が殺到し、何十台もの消防、救急車などが出動している様子が映像で流れていた。

事故か、年明けを狙ったテロか?

能登の大地震、羽田の事故。暗い気持ちで日本のニュースを見ながら、こちらでも波乱の年明けなのかと思ってうんざりした。年明け早々、いやな雰囲気である。

情報を求めて携帯でフェースブックやXなどをチェックしてみると多くの書き込みがあった。

曰く「さっき、地面の下か、遠くの方で、すんごい爆発みたいな音がしなかった?」「あったあった。何だったんだあれ?」「どこかで爆発でもあった?」などのコメントが散見された。

朝7:30。なにか大変なことが起きているようだ。

ニューヨーク市緊急事態管理局からも「X(旧ツイッター)」上で、よくわからないことが起きてるので現場近くを避けるように、との勧告が出されていた。

ネット上を更に検索するも、よく分からなかった。

その後、警察、消防、当局などが動いていたらしいが埒が明かず。

しばらく何が起きているのか分からなかったのだが結局、それはNYでは珍しい「有感地震」であることが判明した。

更に個人的に驚愕したのは震源は私のアパートから1キロ程度の場所。マグニチュード1.7、深さ5KM、震度1未満であったが、地震を知らないニューヨーカーはなにかの爆発だと思い、通報が殺到したようだ。

私も、家族も一切気が付かなかった。だが、NY地域では各局の朝のトップニュースになっていたのであった。

(出来事を伝えるNBCニュース

(ご興味がある方は以下のリンク地図の拡大表示を参照されたい。アメリカ地質調査所のレポート

アメリカ東海岸在住の人々の地震に対する意識は驚くほど低い、と思う。地震の経験が皆無である人々も多い。

手前味噌で恐縮だが、その昔、阪神大震災の時に、アメリカ人の意識調査のテレビのインタビューで50人程度、街頭のニューヨーカーに話を聞いたことがあったが、その中で「ニューヨーカーの殆どは地震を経験したことがない」という結論に衝撃を受けた。

その時、地震のイメージも聞いてみた。

「地割れが起こり、人々は飲み込まれ、この世の終わり?というイメージ」という人が多かった。

思い出すのは2011年8月23日。

東海岸ヴァージニア州を震源とするマグニチュード5.8の地震が発生し、その時はニューヨークでも揺れが感じられ、大パニックとなった。

以下の動画はその時、官公庁街から飛び出てきた数万人の人々。

2011NY地震.mp4

手錠をかけられたまま建物を飛び出してきた裁判所の被告や、被疑者もいた。ニューヨークで地震を感じるのはかなり珍しい、とは言え、このときの震度は2未満だったが、ストリートは大パニック。

当時、この話が日本で報道された時「震度2でパニクるニューヨーカー」は、日本人からすればかなり滑稽に映ったと思う。

だが、実際は、地震に対する意識の違いだけでは済まされない深刻な問題もはらんでいる。

ニューヨークは戦災で街が焼け出されたようなこともないので、100年以上も前の建物がかなりの数が現役で使われている。

前回の記事にも書いたが、古すぎるニューヨークのインフラは大変な危険をはらんでいる。市民はそれを知っていて、ちょっとしたことがきっかけで建物全体が崩壊する、生き埋めになるかもしれない、と、人々は潜在的な恐怖を抱いている。

ニューヨークは歴史的に街が壊滅するような地震に見舞われたことがない。よって、建物なども、大きな地震が起きないことを前提で作られており、奇抜だが、素人目に見ても脆弱なデザインの建物や、100階建て以上の建物も多く、これらは、日本ではまずありえないような設計になっている。

▲写真 2つのタワーがブリッジでつながっているアメリカン・コッパー・ビル 。片方のタワーが折れ曲がった特徴的な意匠(2021年3月9日米・ニューヨーク市のマンハッタン・ミッドタウン)出典:Gary Hershorn/Getty Images

▲写真 ニューヨーク市マンハッタン・トライベッカ地区にある高層ビル「56レオナード」、通称「ジェンガ・ビル」。各階が不規則に飛び出している。(2023年04月24日米・ニューヨーク市)出典:Andrew Lichtenstein/Corbis via Getty Images

昨年、マンハッタンはその上に作られた構造物の重みで年間1ミリ程度沈みつつある、という話が話題となった。今回の地震を発表したアメリカ地質調査所の研究結果である。

地層や断層が複雑な日本からすれば信じられないだろうが、マンハッタンは「マンハッタン片岩」という1枚の岩盤の上に乗っている。いわば、1つのテーブル、1枚の板の上にすべて乗っている構造で、沈むなら一蓮托生の運命にあるとも言える。

2024年に我々ができることは何であろうか。

(了)

トップ写真:地震で避難した人々、ロウアー・マンハッタンの建物の外で。 (2011年8月23日米・ニューヨーク市)※今回の地震の映像ではありません 出典:Spencer Platt/Getty Images

© 株式会社安倍宏行