避難生活の長期化で気をつけたいこと(公的な情報をまとめました)

厚生労働省による「生活不活発病」のチェックリスト

 最大震度7を観測した能登半島地震では、避難生活の長期化も予想され、心配はつきない。例えば食中毒も含めた感染症対策、体の機能低下、エコノミークラス症候群、アレルギーへの対応などが挙げられる。こうした問題に対処するために、国や専門家はさまざまな情報を提供している。ただ、情報があふれるインターネット上で必要な情報にたどり着くのは簡単ではない。そこで、公的な機関や専門家への取材内容をふまえ、まとめてみた。(共同通信=村川実由紀)

厚生労働省が呼びかける「感染症対策」

 ▽感染症対策、食中毒
 厚生労働省は避難所での感染症の発生と拡大を防ぐため、手洗いや換気、マスクの着用、せきエチケットに気をつけて、トイレや床を掃除するなど、衛生状態を保つよう呼びかけている。手洗いでは流水でよくぬらして石けんをつけ、手のひらをよくこする。手の甲をのばすようにこする。指先や爪の間を念入りに洗う。指の間も洗う。親指と手のひらをねじり洗いして手首も忘れずに洗う。
 せきが出るときはマスクの着用を。基本的なことだが、鼻と口を両方覆うのが正しい着用方法。マスクがない場合はティッシュやハンカチ、そでで口や鼻を覆う。換気を心がけることも大切だが、寒さで窓やドアを開けられない場合もある。換気扇は常に稼働するようにしたい。

厚生労働省が呼びかける「換気」

 

 厚生労働省が1月10日に発表した2023年12月25~31日のデータによると、全国的に新型コロナウイルスの感染者数が増加傾向にある。今回のデータには反映されていないが、現地からはノロウイルス感染症、新型コロナ、インフルエンザの感染報告があり、感染対策が急務となっている。

 厚労省のノロウイルスによる食中毒対策の呼びかけによると、ノロウイルスは冬に感染が多発する傾向がある。調理をする人の健康管理、作業前の手洗い、調理器具の消毒などが必要と説明している。

厚生労働省が呼びかける「ノロウイルスによる食中毒対策」

 ▽体のケア、エコノミークラス症候群の予防
 避難所では、疲れや慣れない生活でから体の機能が落ちる恐れがある。毎日の生活で活発に動くようにすることが大切。身の回りを片付けたり、散歩したりなど、簡単なことで良い。体の機能が低下した「生活不活発病」になっていないか、調べるチェックリストもある。災害前に比べて歩かなくなっていたり、入浴やトイレ、食事などの場面でできないことが増えていたりしたら注意が必要だ。

厚生労働省が呼びかける「体の機能低下防止」

 特に気をつける必要があるのは高齢者、認知症の方だ。食事では誤嚥に注意。可能であれば細かく刻んで食べやすくする。できれば1日1リットル以上の水分を補給する。

厚生労働省が呼びかける「認知症の人や高齢者の健康管理」

 水分不足が続くと便秘やエコノミークラス症候群のリスクが高まる。車中避難など体を動かしにくい状況でも発症する可能性がある。厚労省は予防体操として、首を前と後ろに動かす、体をひねる、肩を上下に動かす、足首や足の指を動かす―ことを紹介している。

厚生労働省による「エコノミークラス症候群の予防体操」

 ▽アレルギー対応
 避難所で難しいのは、アレルギーの病気を抱える人への対応だ。厚労省はアレルギーポータルというサイトを参考にするよう呼びかけている。食物アレルギーがある場合、炊き出しや支援物質の内容を確認すること。周囲にアレルギーがあることを知らせることを提案している。

厚生労働省が呼びかける「食物アレルギーへの対応」

 普段と異なる環境での生活では、ぜんそく発作も起こりやすくなる。原因をできるだけ避けることなどを呼びかけている。

厚生労働省が呼びかける「ぜん息への対応」

 ▽不安、ストレス解消
 メンタルヘルス(心の健康)を保つことも大切だ。筑波大の災害・地域精神医学講座(太刀川弘和教授)は災害直後のメンタルヘルス保持に役立つ工夫をまとめている。
以下に、内容を抜粋して紹介する。
<被災者へ>
 大変な苦労をされている中でも心を健やかに保つために留意を
・気持ちをリラックスさせる
・安全な場所に避難した後は鼻で息を3秒吸って、7秒かけてゆっくり吐く深呼吸や音楽を聴くなどしてリラックスしよう
・頭を整理する
・やるべきことに優先順位をつけて、先延ばしにできることはそうして、負担を少なくする。考えすぎには注意
・適切な行動をとる
・生活リズムをできるだけ維持
・コミュニケーションを
・親しい人とできるだけ話してねぎらうことが重要。子どもは不安を抱えやすいのでそばにいて安心させてあげる。不調がある場合は我慢せずに相談を。
 被災者だけでなく、能登半島地震、羽田空港事故と続き、心が痛む情報に接して精神的に負担を感じた人も多いのではないだろうか。
 <報道などで情報ストレスを感じた人へ>
・衝撃的な内容の報道の視聴でストレスを感じることがある。心身の不調につながらないよう注意
・繰り返し、長時間、何かしながらの視聴は避ける
・事件報道や映像、写真などの繰り返し、長時間、何かしながらの視聴は不安に直結する恐れがある。特に映像は不安に直接影響を与えやすい。ニュースなどは最小限の視聴が良い
・情報の内容や出所に注意を
・災害直後は大量のデマやうわさがインターネット上などで発信されやすい。そうした情報が人々を不安にする悪循環が生じる。報道も情報源を確認し、政府機関など信頼できる出所から入手するように
・メンタルヘルス不調なら報道の視聴は避ける
・もともとメンタルヘルスに不調がある人は事件報道により敏感で調子を崩しやすくなることが知られている。そうした人はできるだけ報道の視聴を避ける
・前向きな情報を取り入れる
・苦労しつつ頑張っている被災者の話や応援メッセージなどは心を前向きにし、気持ちを整理する力を持っている。そういった情報は積極的に取り入れる
 過酷な状況で活動を続ける支援者も、メンタルヘルスを保つ必要がある。
 <支援者へ>
・無理をしない
・被災して支援している人は二重のストレスがかかることもある。業務で心ない言葉を浴びる場合もあるかもしれない。小まめに休息を取り、決して無理をしない
・組織で守る
・苦労話を共有できる仲間とコミュニケーションを取り、ねぎらい、不安に陥らないように。精神的につらさを感じたら、上司や信頼できる人に相談する。所属長は職員を守る配慮を
【詳細は→令和 6 年能登半島地震、ならびに⽻⽥航空機事故に関するこころのケアについて

 

独立行政法人「労働者健康安全機構」が設置した「災害被災者のための心と健康の相談ダイヤル」

▽「優先順位付けて、最低限できることを」
 独立行政法人「労働者健康安全機構」が「災害被災者のための心と健康の相談ダイヤル」を設置した。基本的には被災した事業者や労働者、その家族が対象。
 災害に関連するストレスや不安、人間関係の悩みのほか、エコノミークラス症候群や感染症対策といった健康相談にも対応する。電話番号は(0120)200826。平日の午前10時~午後5時に受け付ける。
 そのほか、心の健康に関しては避難所などではDPAT(災害派遣精神医療チーム)も活動しており、不調があれば相談できる。
 いろいろ紹介したが、全てを徹底するのは難しい。筑波大の太刀川弘和教授(災害地域精神医学)はこう話している。「物事に優先順位をつけて、最低限できることをやろうと思っていただきたい」

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