中判デジタルの魅力[中判カメラANTHOLOGY] Vol.08

Phase One P65+ / Mamiya Sekor D AF55mm F2.8 LS / ISO 100・1/125 s・F5.6(645フルフレーム機:画角は135換算34mm相当) Model:Haruka※画像をクリックして拡大

「大きく伸ばさないなら、中判が必要な理由がわからない」と考える人は実に多い。これはハッキリ言って、SNSにアップしたものをスマートフォンで見ても判別がつかないという意味では、多くの場合その通りである。

筆者は10年ほど中判デジタルを愛用しているが、当然ながら中判で撮ったからといってそれが良い写真になるわけではない。しかし、フォーマットの大きさは物理的なもので、程度の差こそあれ必ず「違い」は出る。あくまで用途に合わせて使い分けるものだという前提で、筆者なりに中判デジタルの魅力を紐解いていこうと思う。

中判デジタル = 高画素!?

中判を使わないプロカメラマンに「中判デジタルの使い道」を尋ねたなら、ポスターや屋外広告を挙げる人が多いと思う。

圧倒的な高画素は(最大で1億5100万画素)広告や美術品等のアーカイヴ用途で重宝され、当然ながら中判デジタルが最も力を発揮するジャンルでもある。

では、高画素が必要とされないケース、または35mmフルサイズ機で同等の画素数を有している場合、中判を使うメリットがないのか?というのがこの記事の主なテーマとなっている。

センサーサイズ

デジタルの中判には、大きく分けて3つのセンサーサイズがある。一口に「中判デジタル」と言っても、かなり大きさの違いがあるのが現実だ。

センサーが大きいと何が違うのか

Phase One IQ260 / Hasselblad HC 100mm F2.2 / ISO 100・1/200 s・F9(645フルフレーム機:画角は135換算64mm相当)※画像をクリックして拡大

こちらは645フルフレーム機にて100mmのレンズで撮影し、各フォーマットでの画角を示したものである。レンズのイメージサークルを無視して考えるならば、センサーが大きければその分だけ「広く写る」ということがおわかりいただけると思う。

フォーマットが違う場合、よく「35mm換算○○mm F○.○相当」という言い方がなされるが、どの大きさであろうと実際のレンズの焦点距離やF値が変化することはない。換算しているのは焦点距離ではなく「画角」なのだ。

標準レンズの80mm F2.8はどのフォーマットで使っても80mm F2.8のままだし、例えシノゴやバイテンで使ったとしても、焦点距離とボケ量はまったく同じである。

ボケが大きくなる理由

左)Nikon Z9 / NIKKOR Z 50mm f/1.2 S(絞り開放)右)Phase One P65+ / Schneider Kreuznach AF80mm f2.8 LS(絞り開放)※画像をクリックして拡大

手持ち撮影での簡易的な比較ではあるが、ニコンのフルサイズ機Z9(レンズはZ 50mm f1.2 S)と、フェーズワンの645フルサイズ機(Schneider AF80mm f2.8 LS)で同じものを撮影している。

50mmのF1.2開放と、80mm F2.8開放だが、後者のセンサーサイズは約2.5倍にもなるため広く写る。その結果、画角もボケもかなり似た感じになった。

このように「画角」をそろえた場合、レンズの明るさではなく焦点距離の違いによって、中判は被写界深度が浅くなる。

広く写る分、同じ画角を得るために焦点距離の長いレンズ(望遠レンズの特徴を持ったもの)を使うことになり、立体感が強調される。つまり、例え同じ画素数のカメラであっても、135判と中判センサーでは写りに違いが生じる。

中判フィルムカメラ(6×4.5~6×9)やシノゴ、バイテン等を使ったことのある方や、デジタルAPS-Cから135フルサイズに乗り換えた経験のある方なら説明不要だろう。

左)EOS R6 / RF 24-105mm F4 L(24mm域)右)Phase One P65+ / Phase One AF35mm f3.5(35mm)※画像をクリックして拡大

こちらも簡易的なものではあるが、135フルサイズ機の24mmよりも、645フルフレーム機の35mmの方が広く写っている(画角は換算で22mm相当)。レンズ描写も24mmより35mmの方が立体感や描写力が高いことは容易に想像がつく。

このように、焦点距離の長いレンズを使用することによって、絞り込んで撮影しても平面的な描写にならず、触れることができそうな「立体感」を感じることができる。超高解像データにも関わらずギスギスした画像処理感が少なく、画質に余裕を感じるのもそのためだ。

この立体感が、機種によっては1億画素を超える画素数と相まって、大型の広告物で圧倒的な画質を実現するというわけである。

逆にパンフォーカスで撮影しようと思うと、例え広角域であってもかなり絞り込む必要がある。仕事で商品撮影をする場合にも、限界まで絞っても全域にピントが来ず、結局は引いて撮って後からトリミングするという本末転倒なことになりがちだ。その分野でセンサーサイズを活かすならフォーカス・スタック(深度合成)が必須と言えるだろう。

「背景をボカしたい人」に中判はマッチするか

Leaf Aptus22 / Mamiya AF55mm F2.8 / ISO 50・1/114 s・F5.3(48×36センサー機:画角は135換算40mm相当)※画像をクリックして拡大

使うレンズの焦点距離が変わることで、普段見慣れている写真よりもピントが浅くなる「違和感」こそが中判らしさであると思うし、これはフィルムの中判とまったく同じ原理である。

ただし「とにかく背景をボカしたい」「ボケの量 = 立体感のある写真」と捉える人は、残念ながら中判デジタルに向かないのではないかと個人的には思う。

中判レンズはF2.8よりも明るいものが少なく、最短撮影距離も長くなってしまうため、純粋にボケ量を大きくしたい場合は135フルサイズ機に明るいレンズを着けた方が、簡単に大きくボカすことができる。感覚的な話をするなら、中判はボケが大きくなるというよりも、やたらピントが薄くなっていく。ピント面からボケへの繋がりは実になだらかである。

ボケ量至上主義の方が中判デジタルに手を出したとしても、すぐに手放してしまうケースが多いと感じている。

中判デジタルのメリット・デメリット

Leaf Aptus22 / Mamiya AF35mm F3.5 / ISO 50・1/14 s・F5(48×36センサー機:画角は135換算25mm相当)※画像をクリックして拡大

冒頭で「フォーマットは用途によって使い分けるもの」と書いたが、中判デジタルのメリット・デメリットを筆者の視点で書き出してみた。

<メリット>

  • 絞り込んでも立体感がある
  • 高いレタッチ耐性
  • 豊富な色情報(鈍い色が表現できる)

<デメリット>

  • ピントが浅すぎる
  • カメラ機能がシンプルで楽ができない
  • 何もかもが高い

なんと言っても、巨大なセンサーによる物理的なメリットは、絞り込んでもしっかり立体感が出ること。これは大きく伸ばしたときにこそ違いが出やすいため、仕事目線で考えるとやはり広告系で最大の威力を発揮する。

画素数に関係なく写りに違いが出るが、きちんと目的を果たす写真が得られるのであれば、簡単に撮れるに越したことはない。撮影の手間やピントのヒット率を考えると、過剰なクオリティを求めずに135フルサイズと使い分けるのが常識的な選択だろう。

作品をつくる場合や、趣味の道具としてみた場合(費用対効果を無視した場合)過剰なクオリティであったり、撮影が難しかったりすることさえもメリットになり得るし、写真を撮るというシンプルな行為に立ち戻る良い機会になると思う。

中判デジタルは金額も張るものだが、基本的には10年ほど使うユーザーが多いと思う。50万円するカメラを数年おきに買い換えるのか、数百万のカメラを10年以上使うかは考え方次第だろう。

まとめ

Phase One P65+ / Schneider Kreuznach AF 110mm F2.8 LS / ISO 400・1/160 s・F4.5(645フルフレーム機:画角は135換算71mm相当) Model:Vivi※画像をクリックして拡大

中判の記事でこうまとめるのもどうかとは思うが、ソコソコ画質が良くて何でも撮れるという点で、最もバランスが取れているのは35mmフルサイズ(135判)だろう。

中判デジタルの良さは体験しないとわからないものではあるし、全員が中判の描写を好むとは限らない。それを承知の上であえて中判を導入するのなら、センサーサイズの大きい645フルフレーム機を選択すると、その差が大きいのでハッキリと使い分けができるだろう。特に趣味の撮影であったり、フィルム機で使用する場合も、なるべく大きいセンサーの方が本来の画角でより楽しめると思う。

4433センサー機は35mmフルサイズに近い感覚のまま、より高画質で撮影できて非常に使いやすい。特に仕事の撮影であれば、4433センサーの方が楽で確実というケースも多い。

現状、フェーズワンを除きそのほとんどが4433センサー機となっている。一番はセンサー製造のコストにあると推測するが、センサーの大きさに比例して撮影の難易度が上がってしまう点、カメラやレンズが巨大になるという側面もある(645フルフレーム機の最新レンズの巨大さを見れば、4433に限定した中判システムがいかに軽快かわかると思う)。センサーサイズに関しては、大は小を兼ねないのが現実なのだ。

冒頭でも記したように『フォーマットは使い分け』である。かつて高嶺の花だった業務用のデジタルバックが、信じられないような中古価格になっている現実。さらに趣味層をターゲットにした新たな中判製品が続々発表されるという、ユーザーにとって選択肢が多い素敵な時代になっていることを、ぜひ見逃さないでほしいと思う。

<ご注意ください>

業務用のデジタルバックは構造上壊れにくい面もありますが、製造からかなりの年月が経過しているものも多くあります。修理受付が終了している製品であったり、修理が可能な場合もかなり高額になるのが普通です。

機械はいつの日か必ず壊れるものです。
よく調べてリスクを覚悟の上で、自己責任でご判断ください。

富永 秀和|プロフィール
1983年福岡生まれ。グラフィックデザイナーから転身した職業フォトグラファー。2013年に中古購入した中判デジタルでその表現力の虜となる。福岡のシェアスタジオで経験を積み2022年に上京。 総合格闘技(MMA)ファン。 WebsiteYouTubeInstagramを更新中

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