「パティシエ・シマ(PATISSIER SHIMA)」(麹町)スペシャリテ「クレーム アンジュ」の秘密と麗しの洋栗と和栗のモンブラン

東京メトロは、有楽町線麹町駅から約徒歩3分。「パティシエ・シマ」は、1998年麹町にオープンし地元民はもちろん、多くの人に愛され続けている人気店。

店内には常に驚くほどの種類の生菓子と焼菓子がズラリと並んでいます。フランスの郷土菓子「クレームアンジュ」をはじめとした様々なお菓子がたくさんあります。

フランス菓子の真骨頂を体感できる、島田シェフが奏でるお菓子たち

オーナーシェフを務めるのは、島田徹シェフ。日本で最初のフランス菓子専門店「A.ルコント」でフランス菓子の基礎を学んだあと渡仏し、パティスリー界のピカソと呼ばれる「ピエール・エルメ」パリ本店へ。そして5つ星ホテルであるホテル「ル・ブリストル」を経て約5年の滞在後帰国し「パティシエ・シマ」へ。

2015年には東京都洋菓子協会の公認技術指導員に任命される。スイーツ甲子園では審査員をつとめるなど大活躍。洋菓子界でも若手の指導や業界全体にも関わるなど、若くして業界全体を盛り上げ、尽力する姿は日本を代表するパティシエといっても過言ではありません。

“ふわふわした神様のご馳走”「クレーム アンジュ」

今回特集で紹介するモンブランの前に、まずはスペシャリテから。真っ白な見た目とふわふわした食感の秘密は「フロマージュブラン」というチーズ。そのルーツは「島田シェフの父である島田進さんのパリでの修行中にありました。

当時、まかないを作ったアンジュ出身のおばちゃんから「ノルマンディーにフロマージュブランを使った美味しいお菓子がある」と教えてもらったのが「クレーム アンジュ」のルーツ。

その後、島田進さんがフランスから帰国した際にチーズを日常的に食べない日本人に「フロマージュブラン」をどう広めていくか? そう考えたときに「お菓子」が一つのヒントに。“お菓子仕立て”にすることでフランスの食文化を広めるのはどうかと考えたそう。当時の日本にはフロマージュブランは賞味期限も短く、空輸するしか輸入の手段もなく、大変高価なものでしたが、そんな島田進さんの想いもあり、修業時代に“見て知って、食べて感じた”「クレーム アンジュ」をここ日本で表現されました。

そして味わいはチーズの酸味がふわっと心地よく、ビスキュイにフランボワーズのソースをしみ込ませているので口に入れた瞬間にじゅわっとその甘酸っぱさが広がります。もともとはアンジュの地で皿盛りの状態で出されていたものをテイクアウトできるよう、この仕立てに行き着いたそう。

手土産にもぴったりなこちら、ぜひ一度食べて欲しい逸品です。

洋栗と和栗、異なるアプローチでモンブランの新しい美味しさに出会う

本題のモンブランは2種類。洋栗のモンブランは、お父様と島田シェフが大好きだったという「アンベール」のマロンペーストと、そこに合わせるのは北海道の生クリーム。

この「生クリーム」一つをとっても島田シェフのこだわりがつまっています。北海道産といっても、その場所は釧路の上に位置する浜中町。浜中町は、牧草地が広がり自然豊かな地で、その牧草を食べて育った牛のミルクは、ミルク本来の風味をしっかり感じさせる美味しさ。その美味しさに惚れて島田シェフがこだわって選んで使っています。さらにここ浜中町は海風が吹くような風土。それがまるでノルマンディーの風土にも似ている、と島田シェフは言います。

そして最後に加えるのはお父様が使っていたラム酒ではなく、コニャックである「ヘネシー」。実は島田シェフはワインエキスパートの資格を取得。その時にワインの勉強をする中で、「お酒」と「食材」2つの要素と向き合うことに。例えばラム酒と栗が一般的だったけれど、もっと違う組み合わせはないだろうか? こうして2つの要素を探求していく中で出会ったのが黒糖のような香りと、樽がもたらすバニラのような風味が特徴的なコニャック「ヘネシー」だったそう。

和栗は四万十川の栗。そこに洋梨のババロアと、合わせたはメレンゲではなくタルト。島田シェフが大好きだったというタルトのモンブランを表現しています。和栗と洋梨、一見相反するように見える組み合わせは絶妙な点と点で結びつき、和栗の繊細な香りに、洋梨が輝きを与えてくるようなインパクトです。ぜひ食べ比べて欲しい二つのモンブランでした。

“シンプルだけれど、喜んでもらえるものを届けたい”

コロナ禍を経て、島田シェフが大切にしていることを伺うと……。

島田シェフ「1つは、労働環境の改善と生産性を強く求められている時代。複雑で手がかかる仕事よりも大事にしていくことはシンプルだけれど、何より美味しくてお客様に喜んでいただけるもの。それが定番商品以外に何かないか。それを凄く考えるようになりました。その一つが新しく始めたクッキー缶です。在宅よりも出勤する方が増えたことから、手土産の需要が増えて、多くの方に喜んでいただけました。」

表にたって活躍される姿がより目立つようになった昨今、今後島田シェフが挑戦したいこと、目指したいことを伺うと……。

島田シェフ「父のあとを継いで、このままお店を守り続けたいという気持ちと、それとは別でこのパティシエ・シマのアイデンティティから離れて、違うクリエイションをやってみたいという気持ちがあります。それはどんな形で、どんな規模かは決めていませんが、挑戦したいですね。」

About Shop
パティシエ・シマ(PATISSIER SHIMA)
東京都千代田区麹町3丁目12−4 麹町KYビル 1階
営業時間:11:00~19:00(土曜日のみ17時まで)
定休日:日曜日

Writing/坂井勇太朗(編集長)

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