イ・ビョンホンが語る!狂気的な人物像をどう作り上げたのか?全国公開中『コンクリート・ユートピア』制作秘話インタビュー

イ・ビョンホン

イ・ビョンホンが制作秘話を明かす!

大災害により一瞬にして廃墟と化した首都ソウルで唯一、崩落しなかったマンションを舞台に繰り広げられる生存者たちの争いを描いた『コンクリート・ユートピア』が、2024年1月5日(金)より全国公開中だ。

第48回トロント国際映画祭では「『パラサイト 半地下の家族』に続く傑作」(Screen Daily)と高く評価され、第96回アカデミー賞国際長編映画賞の韓国代表作品に選出されるなど、世界的にも期待を集めている本作。ご存知『梨泰院クラス』(2020年)のパク・ソジュンや、『はちどり』(2018年)の新鋭パク・ジフ、『三姉妹』(2021年)などの実力派キム・ソニョンほか多彩なキャストも大きな見どころだ。

そんな本作で主人公の一人ヨンタクを演じる名優イ・ビョンホンが今回、インタビューに応えてくれた。何が本作への出演の決め手になったのか、クールなイメージを覆す強烈なキャラクター像をどのように作り上げたのか、しっかりと語ってくれた。

「人々がどのように耐え、乗り越えながら生きていくことになるのか」

―最初に本作の脚本を読まれた時に最も気に入った部分、出演の決め手になった部分を教えてください。原作のウェブトゥーンは読まれましたか?

脚本自体が本当に素晴らしかったです。漫画的でありながらも、様々な人間模様をリアルに描いていて、この作品に参加してみたいと思いました。実はこの作品は、あえてジャンルで分けた時に「災害映画と言えるのか」と思うくらい、違う質感を持っています。

普通の災害映画では災害が続いて、話の全体を通して災害がメインとなることが多いのですが、この映画では災害が起こった後に人々がどのように耐え、コミュニケーションを取って状況を乗り越えながら苦労して生きていくことになるかを如実に描いています。そういった意味では、むしろヒューマンドラマやブラックコメディ寄りだと思います。このような部分において災害映画とは違うと思って選びました。

―パク・ソジュンさん、パク・ボヨンさん、キム・ソニョンさん、パク・ジフさん、キム・ドユンさんなど、若手からベテランまで豪華キャストとの共演ですが、撮影現場での印象的なエピソードがありましたら教えてください。

(映画では)ある一人のキャラクターを中心に関係性が展開されていきます。異なる関係性を演じるときに起こる変化や関係性から生まれる態度、そうした様々な変化が総合的にキャラクターを作り上げていくのが俳優として面白い部分だと思います。

グメというキャラクターを演じたキム・ソニョンさんと演技をした時も新鮮で面白かったです。とても良い俳優だと思います。初めての共演だったのですが、なかなか独特な演技をしてくれたので、とても新鮮で楽しい経験でした。

「ヨンタクのような人たちが“権力の味”を知ったらどうなるのか」

―ヨンタクは最初は地味な人物として登場しますが、どんどん尊大な人物になり、それと比例して生き生きとした存在感を放つようになります。その「変化」について、そして彼の「過去」について、監督と撮影前にどんなことを話し合い、どのように人物像を作っていきましたか?

ヨンタクは作中で極端な行動や話をする状況が何度かあります。特にある行動を起こした後、吐き気を催して吐いてしまうシーンにおいて、説得力を持って表現するのに時間がかかりました。監督がどうやって私を説得したかというと、理性の糸がすべて切れてしまうほどの悔しさと怒りがあったのだと考えるように言われました。自我を失うほど理性がなくなってしまう状況だから、そのような行動ができて、そのようなことが起こるのだと説得されました。

また外見については、髪が太く伸びていくスタイルを持つ人がいますが、ヨンタクがそうではないかという話から始まり、その姿を表現しようとメイクチームと相談をしました。毛量が多く、M字に禿げ始めている姿を想像し、その姿で撮影を始めました。現場の誰もがヨンタクらしいと思ったメイクでした。ヨンタクのカリスマ性が増すにつれて髪の毛を少しずつ立ち上がらせ、目も真っ赤に充血させ、徐々に権力に酔っていく感じを出そうとしました。

ヨンタクのような極端な感情の演技は、俳優にとって難しいと思います。私が経験したことのない感情なので、不安で確信が持てませんでした。果たして私が表現した感情が観客を説得できるだろうか? うまく伝わっただろうか? 一瞬一瞬悩みながら演じました。

―撮影はスタッフやキャストと団結することが不可欠だと思いますが、その一方で“王のように振る舞う”ヨンタクを演じること、役に入り込むことは、かなり難しかったのではないでしょうか?

実は初期の脚本では、ヨンタクはかなりストレートな人物として描かれていました。極端な状況に陥った時、この人物がどうなるのか想像してみたのです。

まず、ヨンタクという人物はすべてを失った人として始まります。そして人生そのものは怒りと恨みがベースになっていると思います。予想外の変化によって身分が上昇し、味わうことになる権力欲。ヨンタクのような人たちがその味を知ったらどうなるのか。そこに集中して演じました。

「“生きているキャラクター”になるために、監督たちとたくさん会話をする」

―ヨンタクを含めアパートの住民は残虐な集団にも見えますが、あのような状況下で生きている彼らを一方的に「悪」と断罪することはできませんし、「理にかなっている」という見方もできるかもしれません。観客は「倫理・道徳」と「合理主義・利己主義」を突きつけられ胸が苦しくなりますが、本作のテーマについて、監督とはどういったことを話し合いましたか?

ヨンタクを「絶対悪」とは思わず、段階的に感情を積み重ねていこうとしました。ヨンタクは常識のある人物ではないものの、驚愕すべき人物として描きたかったのです。そこで彼を私たちの周りにいそうな人だと考え、ベースとなる心理を「悔しさ」に設定しました。作品とキャラクターを細かく見てところどころにディテールを仕込んでいるのですが、これも監督との長い会話の末に得られたものでした。

俳優はただ台本を読むだけでなく、作品の中で生きているキャラクターそのものにならなければならないと思います。まさに俳優の努力が必要な部分です。私は“生きているキャラクター”になるために、監督たちとたくさんの会話をするほうで、オム・テファ監督ともそうでした。監督は口数が少ない方なので、会話の中で引き出さないと、何の演出もなく演じなければならない時もありました。普段、私は演技をするときにあれこれアイデアを出すのが好きなのですが、オム監督はそれを好んで受け入れてくれました。

―日本の観客に、メッセージをお願いします。

韓国では2023年に『コンクリート・ユートピア』が公開され、2024年には日本で公開となりました。昨年は本当に久しぶりにファンミーティングを開催し、日本のファンの皆さんと近くで顔を合わせてお話することができた一年でした。2024年も忙しく、作品を作る時間で埋まることになるかと思います。日本で映画が公開される時に舞台挨拶をしたことはあまりないと思いますが、日本での舞台挨拶の機会があれば是非ファンの皆さんと劇場でお会いできたらと思います。

『コンクリート・ユートピア』は2024年1月5日(金)より全国公開中

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