合格率は1%未満…弓道「範士」に合格 田中さん「伝統を次世代へ」 長崎県女性初

祝射会で鍛錬の成果を披露する田中さん=大村市幸町、市弓道場

 諫早市の田中邦子さん(73)が、弓道称号の最高位とされる範士八段に昇格した。長崎県内の女性で初めて。「弓道にこれで終わりということは決してなく、毎日が勉強」と喜びを語り、今後の精進を誓った。
 全日本弓道連盟によると、会員約13万7千人のうち範士は66人。本年度の範士昇格者は田中さんを含む3人。八段までは試験で昇段できるが、範士は指導に必要な教士の称号を持ち、経験や指導実績などを基に選考され、合格率は1%未満の超難関。田中さんは6月の審議会で選ばれた。
 高校の部活で弓道を始め、3年の時、全国高校総体(インターハイ)にも出場。「的中した時の音が心地よく、のめり込んだが、続けるほど姿勢や形などの基本に忠実かつ、心身を鍛えることが重要で、的中はその結果に過ぎないと分かってきた」と振り返る。
 就職や結婚、子育ての傍ら、「弓は生活の一部」になった。師で範士十段の故鴨川信之さんらから学んだ弓道の精神は心の財産だ。事故で左手首を骨折した時、「もう弓は握れないかも」と医師に言われたが、諦めようとは少しも思わず、リハビリに励んだ。
 教士を取得した後、さらに稽古や勉強に打ち込みたくなり、料理教室やパッチワーク、華道などの趣味をやめた。2016年、本県の女性で初の八段に昇段。25回目の出場となった18年の全日本女子弓道選手権大会を最後に選手を引退。「これまでになく集中でき、自分の中で最高の弓を引くことができた」と気持ちの整理がついた。
 その後、指導者や審査員として全国を飛び回りながら、諫早にいる時は市弓道場(西小路町)に通う。
 範士昇格の祝射会が11月23日、大村市内であり、約90人の愛好家を前に、鍛錬の成果を披露した。「弓道は礼に始まり、礼に終わる。先輩に教えてもらった正しい所作やふるまいといった日本の伝統文化をしっかり次の世代へ受け渡すことが自分の役目」。日々変わることなく道場に立ち、厳しく優しく後進の成長を見守り続けている。

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