喫煙場所を撤廃する必要性説く 「喫煙岩盤層」残る中、たばこのリスクを識者が指摘

加熱式や電子たばこを含めた喫煙の有害性を説明し、職場での禁煙指導を求めた研修会(京都市中京区・京都府医師会館)

 たばこの害の最新情報を学び、禁煙指導や受動喫煙防止につなげる産業保健研修会(京都産業保健総合支援センター主催)が、このほど京都市で開かれ、日本禁煙科学会理事長で京都大学特任教授・禁煙外来担当医の高橋裕子さんが、加熱式たばこや「ニコチンゼロ」などをうたう電子たばこの有害性などについて説明した。

 高橋さんは加熱式たばこについて、「有害成分を95%カット」などの表現は「喫煙者に『健康的』との誤解を招く」と指摘した。

 たばこの有害物質は200種類以上あるのに測定されているのは9種類だけ▽固体化のための接着剤なども含まれている-と指摘。動物実験で血管内皮障害や肝障害が報告されている▽人でも免疫に影響し、妊婦の使用で子のアレルギー増加-などの有害性を立証した研究を紹介した。

 さらに、喫煙量を5%に減らしても心血管疾患のリスクは50%しか減らないとのデータを示し、加熱式たばこに変えたり、本数を減らしたりしても、有害性は残っていることを強調した。

 茶葉から作ったスティックを加熱する製品も、「ニコチンゼロ」と称していても加熱によってタールが生じ、他の有害成分が含まれている可能性を指摘した。

 電子たばこについて、青少年への普及に懸念を示した。日本ではニコチン入りの製品は販売されていないが、シーシャ(水たばこ)の名をかたった製品などがネットで販売され、年齢確認なしで購入できる。しかし、電子たばこにもホルムアルデヒドなどの有害物質が含まれており、「無害」のイメージがある香料やグリセリンも加熱吸引で細胞障害などが生じることが研究で示されている。

 世界保健機関(WHO)も「電子たばこを使用している子どもや青年は後にたばこを吸う確率が少なくとも2倍になる」「心臓病や肺疾患のリスクを高める」などと電子たばこの健康への悪影響を指摘している。

 目の前で喫煙していないのに受動喫煙を受ける「3次喫煙」についても説明した。3次喫煙については有害性の研究が進み、マウスの実験で腫瘍発生が増えたことが分かっている。

 屋外で喫煙後に室内に戻ったとき、有害物質が含まれる呼気中のTVOC(総揮発性有機化合物)の濃度が喫煙前のレベルに下がるのは45分かかるとの実験結果を紹介。「45分室内に戻らないのは無理」として、屋外喫煙ではなく、職場での禁煙指導を求めた。

 20代の喫煙者が急速に減る一方で、働き盛り世代に喫煙者が多い。「絶対にたばこをやめないと言う『タフスモーカー』『岩盤層』が残っている」とした上で、「禁煙したいなあ。でも大変だったしなあ」など、禁煙したい気持ちしたくない気持ちが同居していることを指摘。喫煙のリスクを聞きたくない喫煙者に、禁煙の方法や禁煙の良い点を繰り返し伝えることの大切さを述べた。

 「たばこがやめにくいのはニコチン依存と心理的依存」といい、薬だけでなく、家族や医師からの声掛けによって、たばこに対する本人の肯定的な記憶を、時間をかけて塗り替えていく必要があるとした。

 最後に、社会全体が禁煙へと向かう教育啓発と禁煙支援、喫煙場所撤廃などを訴えた。

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