輝きだした 私達なら!浜崎あゆみ「Boys & Girls」新しい年にふさわしい90年代の名曲  明るい希望やメッセージ、想いを届けた浜崎あゆみの名曲「Boys & Girls」

「FNS歌謡祭」で見せたシンガーとしてのあゆ

昨年も例年通り、年末には豪華な音楽番組が目白押しだった。どの番組にも新旧の楽曲たちが並び、見どころたっぷりだった。中でも上質な音楽を届けることで定評のある『FNS歌謡祭』は今年もとても素晴らしく、コラボやカバー、ミュージカルには心が震えた。そして個人的に特に注目して見たのが、昨年25周年を迎えた浜崎あゆみのパフォーマンスだった。

披露した曲は「A Song for ××」。この曲はシングル曲ではない。同名のデビューアルバムのタイトルチューンだ。浜崎あゆみという稀代の歌姫を語るのに、けっして欠かすことのできない名曲であり、1曲だ。それはなぜか…。この曲には彼女の幼少期から抱えてきた葛藤が描かれ、歌う姿は私人・浜崎歩の慟哭のようでもあるからだ。

アーティスト・浜崎あゆみである以前に、私人 “浜崎歩” という一人の女性の心をかたどった魂のようなものがこの曲にはある。そしてそれは今のアーティスト・浜崎あゆみの音楽の礎ともなって繋がっているのだ。

デビュー期は、どちらかというとやや細い歌声と透き通るような高音ボイスで歌うことが多かったあゆが、いつ頃からだろうか。少し癖のあるビブラートを多用するようになり、正直なところその歌声には賛否が別れた。が、最近のあゆの歌声は骨太でありながら、繊細な心のヒダまでも表現できるほどに素晴らしく変化した。いや進化したといっていい。

25周年という時を経て、まさに今、浜崎あゆみはシンガーとしての成熟期を迎えたと思っている。過去曲も新曲も、きっとボーカリストとして見事に、自らが描き出した繊細な歌詞の世界を、表現することができるだろうと確信する。まさにそんな素晴らしいパフォーマンスが、昨年末のFNS歌謡祭で見ることができてとても嬉しかった。

デビューからシングルを約2ヶ月ごとに怒濤のリリース

1998年4月8日、シングル「poker face」でデビューを果たした浜崎あゆみ。登場したときから人形のような可愛さには本当に度肝を抜かれた。ただ彼女がいわゆるアイドルではないことは一目瞭然だった。なぜなら、彼女の瞳の奥はけっして笑っていなかったからだ。私が、浜崎あゆみに惹かれたのはそのルックスもさることながら、“私は大人や世間の言う通りのお人形なんかじゃない。自分以外信じない” と固く心を決めているような、何か社会に対する反発心、あるいは怒りにも似た強い眼差しにあった気がする。彼女の芯の強さを感じ取り、「一体どんな歌を歌う女の子なのだろうか」といつもその動向を食い入るように見ていた。

あゆはデビューから、約2ヶ月ごとのスパンでシングルを次々にリリースしていく。その姿は壮絶でもあった。これが2001年頃まで続いていくのだから凄まじいとしかいいようがない。時代がそれだけめまぐるしいスピードの中、動いていた。

明るい希望やメッセージ、想いを届けた「Boys & Girls」

あゆが花開いたのは、1999年にリリースした9枚目シングル「Boys & Girls」で間違いないだろう。この曲までの作品も名曲揃いで、一切の古さを感じさせない。ただ、どの曲にもどこか “影” があり、もの悲しさ、せつなさ、侘しさのようなものが曲の世界に漂っていた。

ところがこの「Boys & Girls」では、それらの世界から大きくジャンプするかのようなアップチューンを聞かせる。「♪Ta la la la la la la」というあゆの声で始まるのも掴みとして良かった。そこから軽快なリズムが怒濤のように押し寄せていく。しかもMVのあゆは、中性的でボーイッシュなショートヘア姿。何かすべてが新しく見えた。

MVで見せる日の光が煌めく明るい世界をのぞき込むあゆに、明日への不安は一切ない。これまでの楽曲で、あゆはこれでもかというほど自分の心の中を赤裸々に描いてきた。それは弱さであったり、孤独であったり…。人が人であるために抱えなければならない、どうにもできない孤独のようなものを、あゆはずっと繰り返し歌詞に綴ってきた。そしてそれは現在に至るまでそうだ。

そんなあゆが、この曲では自分ではなく他者へのメッセージを初めて歌っているように見えた。想いを発信する側にあゆが立った、そんな瞬間のように思えた。

 輝きだした 私達なら
 いつか明日をつかむだろう
 はばたきだした 彼女達なら
 光る明日を見つけるだろう

あゆは “ねぇ、明日への希望を共に見ようよ” と当時、同じような孤独を抱えていた少女たちに言葉を送っているかのようだった。

当時、渋谷109前で、居場所がなく、ただただ時間を潰し、たむろするしか無かった孤独な少女たちの気持ちに明かりを灯したことだろう。

新しい扉を開き、踏み出そう

そしてこの曲でも、あゆらしいフレーズは健在だった。当時、この曲をカラオケで歌うと男友だちがみな反応したのはーー

 “イイヒト” って言われたって
 “ドウデモイイヒト” みたい

というフレーズだった(笑)。こうしたピリ辛な言葉のチョイスもあゆのセンスであり、時代を読む力を持った表現者であることを証明していたと思う。

ここから新しい扉を開き、明るい方へ恐れずに一歩を踏み出そう! そんな、ひとつの大きなステップを上った、歌姫の清々しい姿がこの曲にはある。

カタリベ: 村上あやの

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