長崎・対馬市 海ごみアートプロジェクト販売収益の一部をごみ回収費に 循環型経済の確立目指す

大量のごみが漂着する対馬沿岸。年間推計で約3万~4万立方メートルが漂着するとされ、生態系や産業などへの悪影響が懸念されている=対馬市豊玉町

 漂着ごみの量が全国最多とされる長崎県対馬市。対策の一環として、市は流れ着いたごみでアート作品を制作し販売するプロジェクトを進めている。島外のアーティストが作り、収益の一部をごみの回収費に充てる仕組み。対馬島内での「循環型経済」の確立を目指す。
 市によると、対馬沿岸にはプラスチックごみなどが年間推計で約3万~4万立方メートル漂着。全国の市町村で最も多いとされ、生態系や産業などへの悪影響が懸念されている。市は年間、約2.8億円の予算をかけ回収や処理を実施。ただ年間回収量は約8千立方メートルにとどまり、全量回収するには到底予算が足りない。
 そこで市は、▽海岸の廃棄物回収▽廃棄物を活用した作品制作▽作品販売▽売上金による廃棄物回収-のサイクル確立を目指すことを計画。日本人アーティストがアフリカ・ガーナのスラム街のごみで作った作品に1億円以上の値がつき、売上金が同国の社会問題解決に充てられている事例を参考にした。
 福岡県出身のアーティスト、しばたみなみさんに制作を依頼。漂着ごみや廃材を使った作品制作の経験が豊富で、2021年には環境省や日本財団が優れた海洋ごみ削減の取り組みを選ぶ「海ごみゼロアワード」で環境大臣賞を受賞した。来年1月から対馬市上県町で約1カ月間かけ、立体構造物複数個を作る。
 市は2月に専用インターネットサイトを開設して作品を紹介し、3月から販売を始める予定。売り上げは折半する。作品の価格はまだ見通せないが、同様の事例が他自治体にないだけに「話題性はある」(市担当者)とみる。他のアーティストも募集し、持続的に制作、販売できる仕組みづくりを目指す。
 作品の希少性を担保するため、複製不能なデジタル資産「非代替性トークン」(NFT)技術を使った証明書も発行。将来的にはNFT証明書を持つ購入者同士のコミュニティー構築なども想定する。一連のプロジェクト資金は「ふるさと納税」制度を活用した「ガバメントクラウドファンディング」で募る。
 市SDGs推進課でプロジェクト担当を務める久保伯人・専門官=シダックス社から出向中=は「単純にアートを楽しめるだけでなく、購入と同時に社会問題解決につながるメリットがある」と指摘。「素材は対馬には大量にある。一過性で終わるものではなく、島全体で海ごみアートを販売できるような基盤づくりを目指したい」と話す。

対馬で来年1月から漂着ごみアート制作に取り組むしばたみなみさん(対馬市提供)

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