【今週のサンモニ】今年もお正月から不安でいっぱい|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

巧妙なデマによる”自傷”行為の繰り返し

2024年1月7日の『サンデーモーニング』は年初の放送であり、通常のニュースに加えて「壊れゆく時代 壁が分断する社会」という新春スペシャル企画を放映しました。

番組がトップニュースで報じたのは、元旦に発生した令和6年能登半島地震でした。スタジオトークでは、次のようなコメントがありました。

寺島実郎氏:日本人が今取り戻さなければならない冷静さというのは、医療とか防災に対する問題意識を一段とギアを入れて、国のレジリエンスを高めるための産業を作っていく努力を始めなければいけない。

安田菜津紀氏:とても深刻なのが、インターネット上で根拠不明の情報まで拡散されてしまっていることだ。デマが拡がると救援活動の妨げになってしまう。

寺島氏と安田氏の言説は的を射ています。

4つのプレートの境界部に位置する日本は、しばしば大地震を経験していますが、その都度社会は大混乱を引き起こしています。寺島氏が指摘したような「国のレジリエンス」を高めるために必要なのは、安田氏が指摘したような「デマ」を駆除することに資する情報セキュリティを確立することです。

日本では、地震を含めた自然災害が発生するたびに、一部の政治家・マスメディア・活動家などがこれを政治利用する様々な情報操作・印象操作・認知操作を展開します。日本国民はこのような大衆操作に伴う巧妙なデマに踊らされて大混乱し、誤った世論を形成して莫大な損失を被るという自傷行為を繰り返してきました。

そのデマの端的な例が、取り返しのつかないほどの莫大な経済的損失を国民に与えた原発デマとコロナデマです。

今回も既に、災害を政治利用する勢力が、被災者救済を阻害するようなデマをいくつか撒いています。特定の新聞報道を除けば、デマの否定に機能しているのはXのコミュニティノートくらいです。

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今はボランティアは被災地に入るな!

本当に残念なことに、日本社会は災害時にマニピュレーターにやりたい放題に大衆操作される脆弱な国なのです。

畠山澄子氏:このフェーズは、大量のボランティアが現地に押し寄せてしまうと混乱を招くので、気持ちをお金に換えることが重要だ。

このコメントも的を射ています。

今回も、自己実現や承認欲求を満たす目的で、何人かの個人がアクセス困難な被災地を不必要に訪問するという被災者救済を阻害しかねない迷惑行為が発生しています。

畠山氏が主張するように、今のフェーズで支援に最も役立つのは、利用の自由度が最も高いお金です。人間には、お金よりも同額の物品に価値を見出す【貨幣バイアス money bias】と呼ばれる認知バイアスがあり、しばしば物品を購入して他者に贈りますが、このプロセスは災害支援に不合理です。物品はお金とは異なり、利用方法が限定されてしまうからです。

もちろん、フェーズが変われば、入手困難で自由度が高いボランティアの労働力は極めて重要になります。

今年も青木理氏は無根拠で批判と絶好調

さて、スタジオトークで以上のような合理的な指摘がある一方、被災地の不安をいたずらに煽るようなコメントもありました。

青木理氏:触れておかなければいけないのは原発だ。珠洲市は市長が「壊滅状態」と言ったが、ここには元々原発計画があった。それは住民の反対でつぶれたが、もし原発があって稼働中であったらどうなのだろうか。今回、志賀原発は止まっていたが、油漏れがあったり、電源の一部が途絶した。ここが運転していたら、ここで事故があったら、半島の先には近づくこともできなくなってしまうことを考えると、やっぱり原発回帰の今のエネルギー政策に対しても目を凝らして「それでいいのか」という視点が必要だ。

青木氏は、合理的根拠が欠如した妄想で原発を批判しています。妄想を根拠にすれば、どんなことでもフリーハンドに批判可能です。

ちなみに、今回の地震で志賀原発が位置する石川県志賀町では東日本大震災に匹敵するような2828galという加速度の地震動を観測しましたが、原発の安全上問題となる被害は発生していません。

プレスリリース 原子力 北陸電力株式会社

外部電源の受電用の2台の変圧器の配管から絶縁用オイルが流出しましたが、別系統・別回線の送電線と変圧器を通して受電が継続しているので、オペレーションにはまったく問題はありません。また、外部電源は至便のために利用しているのであって、外部電源がすべて閉ざされたとしても、原発には複数のディーゼル発電機による非常用電源が確保されています。

また、仮に発電機を稼働していたとしても被害状況に変化はありません。稼働と被害とは無関係であるからです。津波も十分な高さの余裕をもって完全にブロックしています。このような状況において「ここが運転していたら」「ここで事故があったら」という仮言命題(もしAならばB)を設定するのは合理的ではありません。

この合理性を欠いた命題で「半島の先には近づくこともできない」という結論を導き、さらにこれを根拠にして「原発回帰のエネルギー政策はそれでいいのか」なる結論を導くことは【論理の飛躍 jumping to conclusions】以外の何物でもなく、災害の政治利用に他なりません。

青木氏の妄想は、原発の安全性を否定する根拠にはなりません。このような俗に言う「イチャモン」と呼ばれる暴論、すなわち事実に基づくことのないデマを公共の電波で流布することを許容することこそ、国のレジリエンスを低下させることに繋がります。

人々の不安をいたずらに煽って混乱させるという人道にもとる放送は、被災地の支援活動を無用に邪魔する迷惑行為です。『サンデーモーニング』は東日本大震災の経験から何も学んでいないと言えます。

なぜウイグルを無視するのか

さて、新春スペシャルの「壊れゆく時代 壁が分断する社会」では、イスラエル=パレスチナ問題を中心に国際的な争いを紹介する制作映像とスタジオトークで構成されていました。

テリトリーを分断する「壁」を問題視する内容でしたが、これをもってすべてを一般化する試みは完全に失敗しました。

関口宏氏:今日は「壁」ということを中心にしてきましたが、そのほかの壁もちょっとご紹介しておきたいと思います。

アナウンサー:パレスチナを封じ込めるイスラエルの壁だけではなく、世界には多くの壁が建てられています。ポーランドやフィンランドにはロシアとの国境沿いに新たに壁が造られました。そしてアメリカには移民に対する壁、そしてペルーには富裕層と貧困層の居住地区を隔てる壁、さらにインドとパキスタンの間にも領有権を争う地域に壁が造られて長年対立が続いているという状況です。

関口宏氏:壁があるということは断絶が起こっているということですが…

侵略国との国境沿いの壁や不法移民に対する壁は、主権国家の防衛のための正当な壁であり、パレスチナを封じ込めるイスラエルの壁と同一視するのは妥当とは言えません。むしろ「天井のない監獄」と呼ばれるガザ地区とよく類似しているのは、番組では、取り上げなかった新疆ウイグル自治区にある中国共産党によるウイグル人再教育収容所の壁です。

なぜ人権を振りかざす『サンデーモーニング』がこの人権蹂躙の強制収容所の存在を知っていて見事に無視するのか不思議でなりません。

すべての責任を日本政府に課す無責任社会

そして最後は、寺島氏によるオキマリの日本に対する説教です。

寺島実郎氏:日本は民主主義陣営に立っている国と言えるのか。日本の民主主義の実像は与えられた民主主義の中を生きているために本当の意味で民主主義を鍛えていこうという意思があるのか。日本の民主主義というのが置かれている状況を世界で議論していると、日本くらい権威主義的な国はないというのが日本に対する見方だ。権威に弱い。国家に対する依存、国家に対する甘えも含めて、日本で本当に民主主義を成熟させる覚悟と決意があって民主主義陣営に立っているのか。

日本の治者である日本政府は、被治者である国民の意思によって正当に選ばれた代表であり、治者と被治者の同一性が確保されています。日本が民主主義国家であるという事実は疑いようもありません。

しかしながら、日本には、被治者である国民を大衆操作することで、国民が選んだ治者である日本政府を憎ませ、日本社会に自らの価値観を押し付けようとする権威主義勢力が存在します。

それは、日頃から日本国民に対して、狡猾な情報操作・印象操作・認知操作を行っている一部の政治家・マスメディア・活動家であり、その象徴的存在が朝日新聞と『サンデーモーニング』です。彼らは自分と異なる価値観を持つ人物を悪魔化し、自分と同じ価値観を持つ人物を偶像化するという偏向報道の使い手であり、国民に強力な同調圧力を加えてきました。

このような【モラリズム moralism】の強要により、すべての責任を日本政府に課してしまう無責任社会が形成されました。

その典型的な例がコロナ禍の日本社会です。テレビのワイドショーに不安を煽られた国民が、パンデミックの全責任を政府に負わせて、空想のゼロコロナ社会を実現すべく、自分たちの自由を束縛する緊急事態宣言を発令するよう政府に要求するという空前絶後の病的な全体主義社会を形成したのです。

私たちは不必要に百兆円を超える血税を失いました。こんな理不尽な世界を二度と作らせないためにも、私たちは政府を監視すると同時にメディアも監視する必要があるのです。

毎年正月から最高に暗いテーマを放送

以上、今年の『サンデーモーニング』は重苦しい暗いテーマで始まりました。関口氏の言葉も不安に溢れています。

関口宏氏:年の始まりに大きな地震と航空機事故を見せられて、不安なものを感じながら始まったような気が私はしております。私たちは壊れようとする世界を救えるのか。未来に希望をどうつなげればいいのでしょうか…

ただ、今年のテーマが異常に暗かったかと言えば、そうとは限りません。過去の新春スペシャルのテーマも、ネタでないかと疑ってしまうほど、異様に暗かったのです。

『サンデーモーニング』新春スペシャル
2017 迷える世界
2018 揺らぐ世界
2019 ふたつのレール
2020 幸せになれない時代
2021 コロナからのメッセージ
2022 引き裂かれる世界
2023 墜ちるニッポン、再生への道は
2024 壊れゆく時代 壁が分断する社会

あえてポジティヴに解釈すれば、『サンデーモーニング』は、毎年正月から最高に暗いテーマを放送することで、お屠蘇気分に浮かれた日本人を現実世界に引き戻してくれるという今どきなかなか珍しい奇特で親切な番組なのです。

今年もしっかりとウォッチングして行きたいと思います(笑)

藤原かずえ | Hanadaプラス

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