スペシャル企画。「ピエール・エルメ・パリ」実は日本が世界第一号店?ブランド誕生25周年。“日本とピエール・エルメ”の歴史

スペシャル企画。「ピエール・エルメ・パリ」実は日本が世界第一号店?ブランド誕生25周年。“日本とピエール・エルメ”の歴史

ここ数年で、日本のスイーツ界に大きな革命を起こしている「ピエール・エルメ・パリ」。ラグジュアリーな印象から、全日本人にとって憧れのブランドでありながらも身近で、誰もが知る存在感の大きいブランドへ。そんなブランド誕生25周年を迎えた「ピエール・エルメ・パリ」。

取材も殺到し、タイトなスケジュールながら取材を受けていただいた今回。テーマを「日本とピエール・エルメ」の題目のもと日本とエルメ氏の深い関係、そして歩みとこれからのエルメ氏の展望を掘り下げていきます。

実は世界初のブティックは日本。なぜ日本での開業だったのか?

2023年新しくリニューアルしたホテルニューオータニ内ブティック

ピエール・エルメ氏はアルザスに4代続くパン職人の家庭に生まれ、弱冠14歳でフランス菓子界の父とも呼ばれる巨匠ガストン・ルノートル氏に弟子入りし、その後は「フォション(FAUCHON)」、97年には「ラデュレ(LADUREE)」の副社長として活躍し世界中で評価された。その後、自身の「ピエール・エルメ・パリ」をOPENさせたのはパリでもなくフランスでもなく、なんと日本でした。フランスにも先立ってOPENさせたその場所は、東京・千代田区のホテルニューオータニ(東京)。世界第一号店が日本にできた、その衝撃は世界に走ることに。

なぜホテルニューオータニだったのか? そのきっかけは偶然の出会い。ある時、ホテルニューオータニでピエール・エルメ氏本人がお菓子のデモンストレーションをする機会があり、それがきっかけでホテルニューオータニの創業者である大谷氏からホテル内にパティスリーを出さないかという誘いがあった。その誘いにのった大きな理由の一つは大谷社長が本当にお菓子を愛していて、パティスリーが好きだったから。ピエール・エルメ氏が信頼し、この場所を選んだといいます。

麗しのデザートの数々、アシェットデセールの先駆け

その後、「ピエール・エルメ・パリ」は日本初の旗艦店として2005年に「PIERRE HERMÉ PARIS Aoyama(ピエール・エルメ・パリ 青山)」をOPEN。その後、2016年には再リニューアルし、2階がオートパティスリー(高級菓子)の体験空間『Heaven (ヘブン)』として生まれ変わりました。

“ケーキを買う”ではなく、目の前で仕上げられる出来立てのデザートを楽しめるカウンタースタイルにリニューアル。キッチンカウンター越しにパティシエの技を見て、仕上がる瞬間をワクワクしながら楽しめる。今ではアシェットデセールとして、都内でもお店が増えていますが、その先駆けとして「ピエール・エルメ・パリ」は新たな挑戦をすることに。

いつの時代も、先を見据えて新たな挑戦をする「ピエール・エルメ・パリ」のお菓子の世界の魅力と、新たな可能性の創造はお菓子づくりだけではありません。そこには様々なジャンルとのコラボレーションを超えた「対話」がありました。

コラボレーションではなく「対話」が生み出す新しい価値

“コラボレーションという言葉は使わなくなった”

ピエール・エルメ氏は、そう話します。日本の文化への興味を持っており、特に日本の作家谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』(いんえいらいさん)は何度も読んだほど日本へのリスペクトがやまない。「とらや」「ミナペルホネン」「ネスプレッソ」など、日本人に馴染みのあるブランドとの「対話」も記憶に新しいのではないでしょうか。

コラボレーションという言葉が持つ意味よりも、建築家、写真家、画家etc.様々な観点から交流し、お互いの持つ多様性や知識を対話により深めていく。とても印象深かった対話の相手は詩人であり画家でもある、中国出身のフランス人、フランソワ・チェン氏。彼は食いしん坊で、いつもコーヒーとスイーツを食べていて「マカロンへ」というタイトルでエルメ氏へ贈られた詩が、とても印象的だったんだとか。

またもう一つ、例としてあげられるのは自宅で手軽にカフェのような本格的な味わいを楽しめるカプセル式のコーヒーブランド「ネスプレッソ」との対話。エル氏自身がコーヒー豆産地のコロンビアに足を運び、トリマ地域の豆を選び出したシングルオリジンコーヒーやフレーバーコーヒーに加え、このコーヒーと相性のいいケーキも創作。2022年の11月10日(木)〜23日(水・祝)までの期間限定で、「東京ミッドタウン アトリウム」でのポップアップカフェにて提供されました

この対話で「コーヒーへの知識が深まった」とエルメ氏。色々な産地や色々な香りのことを知れた一方でエルメ氏自身は、コーヒーのお菓子への使い方などを共有。お互いに知識を交換し合うような場面になったと話します。

日本のカルチャーとの邂逅

日本において、日本との歩みにおいてもう一つ挙げるとすれば「日本カルチャー」との邂逅をぜひ取り上げたい。

特筆すべきは2022年のサカナクション 山口 一郎氏がスタートさせたプロジェクト「NF」 と藤原ヒロシ氏「FRAGMENT」がタッグを組んだ「NFRAGMENT」と「ピエール・エルメ・パリ」との新しいお菓子の在り方の提案。店内は当イベントのアートワーク、またオリジナルのマカロンの販売など、お菓子の新たなクリエイションと、そして新たな客層を取り入れる今までと異なるアプローチでした。

ファッション、アート、様々な対話がもたらす「ピエール・エルメ・パリ」のお菓子へのアプローチ。そんなエルメ氏が次なる未来を見据えるのは「プラントベース」。

美味しいからこそ「プラントベース」への動きがお菓子界を変える

今回の25周年イベントで、エルメ氏が大きく掲げたのは「植物性スイーツ」。

いわゆる「ヴィーガンスイーツ」。「サスティナブル」な選択肢のニーズはパリだけではなくアメリカをはじめ、全世界でも高まっているテーマです。健康におけるメリットはもちろんのこと、今の世の中における大きな課題として、「ヴィーガンスイーツ」は最も叫ばれるべきテーマの一つであり、それは環境問題など、それを話すと長くなるほど壮大なテーマ。そんなテーマの中で、まずエルメ氏が最も大事にし、取り組んでいきたいのは下記の2つだという。

1つは植物性のスイーツの展開
2つめは良質な、低カロリーのスイーツ

今回完成したのは植物性のマカロン「マカロン ヴェジタル」。卵もバターも使っていないという。アーモンドのプラリネの「アンフィニマン プラリネ ノワ ド ペカン」と、チョコレートの「アンフィニマン ショコラ」、フランボワーズとピスタチオの「モンテベロ」、そしてバニラとスミレの組み合わせの「アンヴィ」。卵白の代わりに、ジャガイモのプロテインを使っているそう。

エルメ氏は、そのお菓子が植物性だから買ってほしいのではなく、おいしいから食べてほしいと話す。特別なコーナーは設けず、今後も自然と食べて美味しいお菓子として、当たり前のお菓子として、植物性のお菓子を広げていくそう。

今の世の中において、“健康志向”よりも「食べて初めて植物性に気づく」「美味しいお菓子がプラントベースだった」というほうが、人々の生活に馴染むのではないか、より新しいお菓子として自然と受け入れられるのではないでしょうか?

持続可能な世界のために、そして健康的な食とその未来のために、世界の巨匠が新たな一歩を踏み出すようです。この「マカロン・ヴェジタル」も日本市場、そして日本の多くのパティシエにとって衝撃的な1つのスイーツになるでしょう。

Photo/Kei Iwata Writing/坂井勇太朗(編集長)

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