水害経験を防災に生かす 茨城・水戸の旧圷渡里地区 住民、茨城大が報告書

3年間の調査結果をまとめた報告書を手にする旧圷渡里地区の住民たち=水戸市渡里町の那珂機場

2019年の東日本台風(台風19号)の被災を機に、茨城県水戸市渡里町の旧圷渡里地区の住民と茨城大が約3年間かけて行った同地域の水害調査が完了し、活動報告書としてまとめた。同大は、住民の声かけによる避難が他の地域より多いことから「洪水への危険意識が強い地区」と高く評価した。住民は作成した報告書を活用して地域の自助、共助の意識をさらに高め、住民の逃げ遅れゼロを目指す。

報告書「圷渡里の洪水の記録と記憶」はA4判、フルカラーで全44ページ。300部を作成し、同市内の図書館などに寄贈したほか、昨年12月4日、同地区の那珂機場で研修会を開いて、20年10月から行ってきた調査結果を住民に報告した。

内容は5章構成。東日本台風による同地区の被災状況や、地域の地理的状況と住宅分布の変遷などを、地図や写真、グラフを加えて盛り込んだ。

中でも同大が19年に同地区で実施した聞き取り調査の項目では、回答した92人のうち、東日本台風で住民の約8割が避難を実施。このうち46%が近所や消防などによる声かけを受けて避難を決断したことが分かった。

調査に関わった同大講師で青山学院大の田中耕市教授(地理学)は「地域のつながりが強い結果が出ている。住民も代々、洪水に関する経験を伝えてきており、地域の水害への意識は高い」と指摘する。

同地区は那珂川沿岸に位置し、これまで複数回にわたり水害に襲われてきた。住民は教訓を見つめ直し、今後の防災に生かそうと、同大と連携して過去の被害記録の掘り起こしや地域に残る伝承碑の調査などを進めてきた。

同地区の根本博文さん(66)は「住民の高齢化や若い人の移住が進んでいる」として、今後の地域の防災力低下を懸念。「今こそ、隣近所の助け合い精神が求められている」と、自助と共助の意識をより高める必要性を強調する。

今後は報告書を活用し、地域の児童生徒とともに伝承碑や昔の堤防の痕跡を巡るなどして、地域の災害意識の向上を図る考え。根本さんは「皆で協力して避難できる体制を考え続けていきたい」と話した。

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