金融の枠を超え地域の課題解決に取り組む佐賀銀行が ペーパーラボで実践していること

佐賀銀行本店の前で。下田さん(左)と西山さん

I創業140年を超える佐賀銀行は、佐賀と福岡の橋渡し役として、地域経済に大きな影響を与えてきた。近年は時代の流れに応じてその立ち位置をアップデート。サステナブルなビジネスモデルの構築に向け地域のコンサルファームを自任し、地域振興やDX支援に積極的に取り組んでいる。そんな佐賀銀行のサステナブル経営の実践に向けての一翼を担っているのがセイコーエプソンのペーパーラボだ。導入の経緯や運用方法をキーマン2人に聞い。

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佐賀銀行 営業統括本部 地域支援部 地域共創グループ 調査役
西山孝史(にしやま・たかふみ)さん
佐賀銀行 総合企画部 経営企画グループ 調査役
下田美樹(しもだ・みき)さん

地域経済のハブを目指して

──まずは佐賀銀行様のサステナビリティの取り組みについて教えてください。「地域の皆さまとともに」というスローガンの背景は何ですか。

西山:私たちは現代の地域金融機関として、金融サービスを提供するにとどまらず、地域の発展に深く関わる使命を持っています。2022年4月に開始した中期経営計画では、地域支援戦略、DX戦略、組織戦略、市場運用戦略の4つを主要戦略としており、どの戦略においてもベースとなるのは、グループ全体がコンサルティングファームとして地域社会の課題に対応し、解決策を提案していこうという強い意思です。この思いが、「地域の皆さまとともに」というスローガンに表れており、私たちの活動が地域コミュニティと密接に連携していることを示しています。

佐賀銀行のサステナビリティ戦略について説明する西山さん

──4つの主要戦略の一つに掲げられている地域支援戦略の実例の中でも、「荒廃園における放牧牛の販売」への支援が特に目を引きました。詳しく教えてください。

西山:これは佐賀県西部の鹿島市での取り組みです。こちらに鹿島市と協力して、荒廃したみかん農園を活用した放牧牛の肥育事業を進める事業者様がいらっしゃいます。間引きのために摘果したみかんやワラ、酒粕などをエコフィードとして与えたり、ICT技術による効率化のために大学と共同研究したり、先進的な取り組みを行っていたのですが、課題がありました。食肉の加工だけは大分の業者でしかできず、加工用の肉を運ぶだけでも多大な労力とCO2排出が問題となっていました。鹿島市が地元業者との連携に苦戦していた中、私たちは地域金融機関としての関係性を活かし、鹿島市内の加工業者様と直接交渉することで、地元での加工を実現することができたのです。この取り組みは第2回地方創生SDGs金融表彰を受賞しました。

──佐賀銀行様が間に入って、事業者同士を結びつけたのですね。

西山:はい、このほかにも、お客様との信頼関係を基盤にさまざまな事業に取り組んでいます。例えば地域商社「さぎんコネクト」を通じて、佐賀県産品の販売を支援しており、これにより地域の特産品が広く知られる機会を提供しています。

──さぎんコネクトとはどのような企業ですか?

西山:さぎんコネクトは、2021年10月に設立された銀行業高度化等会社[^undefined]です。具体的には、佐賀空港やJRの駅など県外からの来訪者が多い場所で佐賀県産の商品を販売する「よかばいマルシェ」を主催したり、クラウドファンディングや広告事業などを通じて地域の良さを域内外に発信したりしています。

ペーパーラボを設置している地下室にて。下田さんはまず大きさに驚いたという

──地域振興に銀行が積極的に関わる理由は何ですか?

西山:銀行は地域で独特の役割を担っています。融資などを通じてお客様のビジネスの裏側まで深く理解しているため、本音ベースでの対話が可能であり、さまざまな業種のお客様との接点を持っています。これが地域振興においても私たちの強みとして発揮できるのではないかと考えました。

──銀行が地域振興のハブとなるということですね。

西山:はい、私たちは資金面のサポートだけでなく、顧客同士を繋げる役割にも力を入れています。これにより、地域内での協力体制が強化され、地域全体の経済発展に貢献できるのではないかと考えています。

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若手行員を中心にペーパーラボ導入を検討

──ペーパーラボの導入経緯について教えてください。

西山:私は、現在は別の部署に異動していますが、以前は総合企画部におり、ペーパーラボ導入の際は私がプロジェクトの責任者でした。現在は下田が中心となり、総合企画部がペーパーラボの運用を行っています。

──ペーパーラボについて知ったのはいつ頃ですか?

西山:2021年の11月から翌年の3月にかけて結成したSDGsスタディグループにいた時です。このグループは若手行員が中心となり、総合企画部が事務局として運営を行っていました。最終的な目標は、2022年3月に経営陣へSDGsに関する提案をするというもの。ペーパーラボについては、その提案を準備する過程で発見し、導入を考えるようになりました。

──ペーパーラボ導入を決めた主な理由は何でしたか?

西山:私たちはその時、ペーパーレス化の取り組みを加速させていましたが、銀行業務ではどうしても紙の使用が避けられません。そこで、紙の使用を減らすだけでなく、ペーパーラボを導入することでリサイクルまで行い、資源を循環させることができないかと考えました。

──実際にペーパーラボはいつ導入されたのですか?

西山:2022年3月に私たちのスタディグループが提案を行い、その後私が事務局を引き継いで、経営陣に向けた具体的な導入計画を1年以上かけて進め、2023年の2月に導入されました。

──ずいぶん時間がかかりましたが、導入の際に障害はありましたか?

西山:エプソン販売さんの手前言いにくいのですが、最大の障害は金銭的な面でした。初期投資が高額であるため、他の省エネ対策と合わせて、経営陣に採算性を示して説得する必要があったのです。また、社会的な価値も打ち出す必要があり、これについては就労支援施設と連携して現金封筒の製作を行うことを提案しました。こうした説得材料を揃えるのに少々時間がかかってしまったのです。

──ペーパーラボを初めて見た印象はどうでしたか?

西山:私は写真で事前に見ていたので、外見に関しては特に驚きはありませんでしたが、実際に紙が再生される様子を見た時は、その速さと効率の良さに驚きましたね。

下田:私は事前に写真を見ていなかったので、紙を再生するためにはこんなミニバンみたいな大きな機械が必要なのかと驚きました。よく本社の狭い地下室に入ったなというのが率直な印象です。

ペーパーラボがある部屋には部署ごとに分けられた回収箱が

──古紙の回収方法について教えてください。

下田:回収は週に一度行っています。定められた日時に各部署から紙を持ってきてもらうシステムを設けています。

──行員の皆さんの反応はどうですか?

西山:私の今の部署は紙を多用する部署なのですが、皆が自然と紙を分別して回収箱に入れています。行員の間で特に抵抗は感じられません。

──紙の分別は行員にとって既に習慣になっているのですか?

下田:随分前から紙の分別を促しており、すでに多くの行員がそれを日常的に行っています。ペーパーラボの導入により意識がさらに高まったと実感しています。

誰一人経済的に取り残さないための「現金封筒」

ペーパーラボの再生紙で作った現金封筒

──現金封筒を再生紙で作ろうと思った経緯を教えてください。

西山:以前は東京の大手印刷会社から現金封筒を仕入れていました。しかし、地域経済への貢献と循環を考慮し、県内での製作に切り替えようと考えました。特にSDGsの観点から、誰一人経済的に取り残されない取り組みであることを重視し、就労支援施設との連携を模索したのです。その際、参考にしたのが北九州市のNPO法人「わくわーく」さんの、「KAMIKURU(カミクル)」プロジェクトです。ペーパーラボを中心に据えたこのプロジェクトでは、紙の再生を単なるリサイクルではなく、多様な雇用機会創出にも役立てていました。そのモデルを佐賀県版としてアレンジしようと考えたのです。

──月間でどれくらいの量を製作していますか?

下田:現在は5つの施設に依頼し、各施設から月に1000枚ずつ、合計5000枚を受け取っています。これらは佐賀銀行の全支店に配布されています。

破れないよう厚みを要するのが課題

──作る施設側と使う営業窓口側の反響はそれぞれどうですか?

下田:施設側からはのり付けの作業が大変という意見もありましたが、継続して取り組みたいという前向きな意見が多いです。営業窓口側では、封筒の厚みが気になるというお客様の声が伝わってきています。ただ、薄くすると破れるリスクがあり、実際に500円玉を入れて振ると封筒から落ちてしまうことがありました。そのため、今の段階では封筒を厚くせざるを得ず、配布するときは「再生紙なので何度もお使いください」とお客様にお声がけするようお願いしています。また、束になったお札が入らないという意見もありますが、これはマチ付きの別の再生紙製品を用意して対応しています。

西山:多少の不便はありますが、再生紙による現金封筒は地域社会への貢献という点では大きな意味を持っていると思います。なぜなら、私たちの支店ネットワークを活用することで、全県の就労支援施設へ依頼することが可能であり、これにより、県内の中心部だけでなく、地域全体にあまねく仕事を分散させることができるからです。実際、就労支援施設からは感謝の声を頂いており、この価値は便利さやコストと比較できるものではありません。

──銀行のユニバーサルサービスの力を存分に発揮しているわけですね。最後にペーパーラボを導入したことについて、総括をお願いします。

終始明るい雰囲気で話してくれた西山さんと下田さん

西山:ペーパーラボを導入する場合は、リサイクルだけでなくアップサイクルという観点から活用方法を考えるべきだと改めて思いました。その点、現金封筒は環境と地域経済への双方の価値を創出できたので良かったと思っています。

下田:銀行に入った時は、このような取り組みに携わるとは思ってもいませんでした。しかし、自分たちが作成した製品をお客様に提供できることは素晴らしいことです。これからも、現金封筒だけでなく、さまざまなアップサイクル品を提供し、銀行業務とは異なる形でお客様に還元していきたいと思います。

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エプソン販売ではエプソングループの長期ビジョン「Epson 25 Renewed」にもとづき、環境負荷の低減に注力し、お客様の課題解決に繋がるソリューションの提案をしています。そして、事業を通じてお客様やパートナーの皆さまと共に「持続可能でこころ豊かな社会の実現」を目指しています。

すべては「お客様の笑顔」のために。

製品というモノに、お客様の願いや、想いを含むコトを添えて提案する。私たちは、そんな姿勢を大切にし、永続性のある価値を創出する企業でありたいと考えています。

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