【西村英丈の次世代人事コラム】第2回 インタープレナーとは――その3つの要素とコンピテンシー

20世紀型の産業は、「足りないものが明確で効率を上げて普及させていくことが重要」でしたが、いまの時代は、実現したい未来に向け「現状とのギャップ=課題を解決していくこと」があらゆる産業の目的となっています。社員が一丸となって目標を達成できるよう設定した指標North Star Metric(ノーススターメトリック:北極星指標)を設定している企業は、2030年以降を見据えた目標を設定する動きもみられます。

そのような、未来にあるビジョンを実現していくためにインタープレナー人材は必要不可欠です。

慶應義塾の伊藤公平塾長は「塾長室だより」で、「イントラプレナーとインタープレナー」について2022年1月に発信されています。

伊藤塾長は、「イントラプレナーとは、自分の会社を内部から変革する人」と定義したうえで、自分が所属する機関の変革を促すためには相当な決心と労力が必要であり、その前提条件は、その機関の目的やミッションを理解して、やり甲斐を感じ、使命感を持つということとされています。ただ、イントラプレナーになるだけで満足してはいけないとし、自分自身を社会のインタープレナー(interpreneur)と位置付け、全社会の発展に寄与する必要があるとされています。

以下の通り、伊藤塾長はインターネットを例に挙げて、インタープレナーを非常に分かりやすく説明しています。

「イントラネット(社内LANなどの社内のみの通信網)とインターネット(社会全体をつなぐ通信網)の違いをご存知の方は多いかと思います。それと同様で、イントラプレナーは組織を内部から変革する人を指し、インタープレナーは組織同士をつないで社会全体を変革していく人を指します。この点において、福澤先生こそが近代日本における偉大なインタープレナーでした」

では、「現代の福澤諭吉」はいかに育成されていくのか。インタープレナーには、下記の3つの要素があります。

インタープレナーの3要素

越境性 Cross-Border
「会社人」ではなく「社会人」の視点を持ち、あらゆる組織の壁を越えて行動する
(壁そのものが存在しないと考える)

自律性 Self-Directed
誰かに言われたからやるのではなく、自身の目的の実現に向け、当事者意識をもって行動する

社会性 Social
自分だけでなく、価値を届けたい他者を思って、社会的意義のある行動をする
(他者が不在ではない)

出典)インタープレナー研究会資料より編集部作成

とはいっても、インタープレナーは、新しい考え方のようで、ある意味、会社組織そのものがなかった時代の原点に返るような考え方です。似たような概念に、1977年にハーバードビジネススクールのタッシュマン教授(Michael L・Tushman)が提唱した「バウンダリースパナ―」というものがあります。ただ、こういったある意味「誰かの代理で行動するもの」ではなく、インタープレナーは個々人の思いを主体に行動していくものです。

そうかといって、個人主体のキャリア論でもなく、「新たな生き方・働き方」であり、「社会の中での役割の名称」でもあり、「より本質的な価値を表現するもの」であると、筆者は考えています。ですから、インタープレナーは大企業・中小企業・スタートアップという産業界だけでなく、自治体、大学・研究などの教育機関、医療機関、官公庁等のあらゆるセクター、各国、各地域、各世代に存在しています。

世界に目を向けるとインドやエチオピアなどの新興国に、そうしたインタープレナーが多く存在しているように思います。むしろ、新興国こそ欧米式をコピーするのではなく、多様な社会の単位で新しい目的を共創し創出された価値の先に、ウェルビーイングがある社会を創っていく必要性が高いのかもしれません。

最近、国内における産業界の場で、インタープレナー人材による価値共創の事例が増えてきました。例えば、会社の外と中をつないでいき、難しいとされたアパレル業界のリサイクルのバリューチェーン構築を進めた話などがあります。

これまでアパレル業界では、糸から糸へのリサイクルが課題となっていました。重厚長大の組織に属する社員が、川上から川下までのステークホルダーと対話して目的を共創し、それを実現するプラントの開発をするような価値共創のきっかけを作ったり、さまざまな業務提携といった話の裏には、インタープレナー人材とインタープレナー人材の出会いがありました。

また行政関連では、「ソトナカプロジェクト」というものが政治の中心地・霞が関にあり、数年前から活動されています。

新卒で民間企業など「霞が関のソト」で勤務経験を積み、現在は国家公務員として「霞が関のナカ」の人となったメンバーを中心に、霞が関のこれからを考えるために立ち上がったプロジェクトです。公式noteではプロジェクトにかける思いや進捗などが語られています。

組織・個人の関係がサステナブルな状態になることを目指し、6つの目標を定めたHR版SDGs

2019年1月に筆者が座長として、次世代人事モデル策定プロジェクト(HR版SDGs)を立ち上げ、経産省の人材政策室の同世代のメンバーが組織の垣根をこえて、筆者が代表を務めるOneHRの議論に参加してくれました。彼らと、国が考える人的資本の議論の内容も含めながら、民間の組織で人事の実務家であるOneHRのメンバーと共に「HR版SDGs」を作成したことがあります。

HR版SDGsは「対話」から生まれたものであり、“腹落ち感(センスメイキング)”があるものです。当時、議論したメンバーの方はいま、さまざまな組織の人事の中枢として活躍されていて、いつでもコンタクトがとれる関係であり、そうしたかけがえのない関係性が構築できたことも、筆者にとって財産となっています。

さらに、HR版SDGsは、大手企業からベンチャー企業まであらゆる人事担当者、人材サービス会社、そして官庁、大学の先生、学生などとも対話しました。こうして目的を共創するなかで、ひとつのHR版SDGsを作れたことは、筆者にとってインタープレナーとしてのひとつの活動でした。

今後、インタープレナー人材を育成できない組織は、サステナブルな成長戦略を描くことができないともいえます。そういったことを企業や個人も気が付きはじめました。こういった動きは日本のみならず、グローバルで求められています。筆者は、インタープレナーに関する理論やインタープレナー人材の育成、その発信と普及を通じて、その仕組みを確立してくための組織として、一般社団法人インタープレナー協会を立ち上げる予定です。

参考資料:インタープレナーのコンピテンシーについて
経済産業省 関東経済産業局
「令和3年度 越境人材を中核とした新産業共創エコシステム構築事業 事業報告書」別添4
https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/open_innovation/data/r3_ecosystem_houkoku.pdf

【西村英丈氏のコラム】
僕たちがつくる、次世代の人事モデル

西村 英丈(にしむら・ひでたけ)

One HR共同代表、一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム理事、一般社団法人シニアism.理事、インタープレナー研究会プロジェクト代表

東京理科大学卒業後、約70ヶ国/地域で事業展開をするグローバルカンパニーへ入社。アジアリージョン統括人事(シンガポール駐在)として5年にわたり、新興国市場の人材マネジメントを推進。HR版SDGsを策定し、次世代人事部モデルとしてメディアにも取り上げられる。そのほか、定年退職後のライフスタイル構築を応援する(一社)シニアism.を立ち上げ、HR分野のデータ活用の推進をする(一社)HRテクノロジーコンソーシアム理事、インタープレナー研究会プロジェクト代表に就任し、現在に至る。その他、(一社)日本バングラデシュ協会理事、東京ビエンナーレのエリアディレクターなども務めてきており自身としてもインタープレナーとして活躍中。

著書に『トップ企業の人材育成力』(さくら舎・共著)、『弁護士・社労士・人事担当者による 労働条件不利益変更の判断と実務ー新しい働き方への対応ー』(新日本法規・共著)がある他、数多くの登壇、執筆実績がある。

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