<7>就職後に学費完済 揺らぎながら自立へ 希望って何ですか

20歳の節目を祝う地元の式典で旧友と記念写真を撮る杏寿さん(左)。社会人2年目となり自立への歩みを進めている=1月7日

 2023年夏。通信制高校・日々輝学園宇都宮キャンパスに勤務する山本明子(やまもとあきこ)さん(62)の元に、経理担当者から吉報が届いた。

 「学費の支払いが終わりました」

 1年前の春に同校を卒業した杏寿(あんじゅ)さん(20)=仮名=が、滞納していた50万円ほどの学費を完済したという。県北の旅館に就職し、毎月の給料から、こつこつと支払っていた。

 経済的に頼りにしていた別居中の母親との連絡が途絶え、唯一の居場所だった学校を失いかけ、「死にたい」とさえ思った杏寿さん。

 それでも学校関係者や友人の支えを受け、何とか社会に足を踏み出した。見守ってきた山本さんは、自立しつつある教え子の姿がうれしい。

    ◇  ◇

 「働いて、返します」

 21年秋。高校3年生の杏寿さんは就職活動が始まる頃、山本さんと約束を交わした。

 同居する父親が、わずかに学費を払うようになってはいたが、滞納額は増える一方。修学旅行のための積立金も、学費に充てた。

 杏寿さんが中学時代に家を出た母親、ギャンブルに金をつぎ込む父親に頼る気は、最初からなかった。

 「親から取り立てるくらいなら、自分で払う方がはるかに楽だと思っていた」

 就職先は、住み込みで働ける環境があることが第一、唯一といっていい条件。親の借金などのしがらみのない場所で、早く独り立ちしたかった。

    ◇  ◇

 繁忙期は1週間働き詰めになることも当たり前の職場。でも話すことは好きだから、接客担当を任される今の仕事を「楽しい」と感じてはいる。

 一方で、日々を生きることに精いっぱいで、意欲や希望をすり減らしながら育った「普通じゃない自分」に将来について問われても、目標は「ない」としか答えようがない。

 ただ、少なくとも今の杏寿さんに「よりどころ」はある。相談に乗ってくれる姉や高校時代に出会った教師、親友たち。

 働き始めて間もない頃、杏寿さんは同僚に暴言を吐かれて傷つき、仕事を辞めたくなったことがある。

 「手当たり次第、連絡した」。山本さんも、相談相手になった。悩みを共有し、解決策を一緒に考えた。後日、上司に注意してもらい不安は解消された。

 「頼らないこと」が当たり前だった杏寿さんが出したSOS。山本さんは、そこに希望を見いだす。

 「彼女は乗り越えられる子。支えてくれる人に一人でも多く出会って、困った時に助けを求められるならやっていける」

 山本さんも、その一人としてつながりを持ち続けようと思っている。

 揺らぎながら一歩ずつ進む教え子に、温かな視線を向けて。

© 株式会社下野新聞社