昨年秋、パリで行われたファッションブランドの新作発表会「パリコレクション」に、青森県三沢市の和裁士附田繭子さん(41)が仕立てた着物が登場した。国内の新興ブランドから直々に指名を受けて出来上がった5着は、栄えある舞台で輝きを放った。「縫った着物が世界に向けて発信されるなんて光栄」と、感激した様子で振り返った。
「ミシンでは表現できない手縫いの美しさ」を追い求め、26歳の時に国家資格である1級和裁技能士の資格を得た。結婚後、7年前に市内で「スタジオあかつき」を開業。写真撮影時に見栄えする着物の着け方を指導したり、着物を貸し出したりして忙しい毎日を過ごしていた。
「パリコレに出す着物を縫ってもらえませんか」。昨年7月、招待枠で出ることになった着物ブランド「SAIKAI(サイカイ)」の旧知の担当者から依頼を受けると、自分自身の成長にもつながると思って二つ返事で引き受けた。仕事を終えて夜遅くから明け方まで縫い針を動かす日々が続いたものの「楽しくて苦にならなかった」と話す。特に注意したのは袖下の丸みの部分。ミシン縫いではミリ単位のわずかな膨らみが生じてしまうため、京都から送られてきた反物を一針一針集中して縫い進めた。モデルが身に着けた際の図柄のずれがないよう注意を払い、根気強い作業を1カ月続け、会心の作品を完成させた。
9月本番でのパリ訪問を考えたが日程が合わず、やむなく断念。それでも現地に出向いたブランド担当者から交流サイト(SNS)を通じ写真が送られてくると、胸の高ぶりを感じたという。「まるで自分が晴れのショーに出ている気分になった」と当時の心境を明かした。
附田さんは再び依頼があれば、引き受けるつもりだ。「次こそパリに行きたい。さまざまな作品を見て目を養い、これからの成長の糧にしたい」と意欲を語った。