大災害時「どうにもならない」 停電、移動、避難生活…医療的ケア児の保護者から不安、行政の支援求める声

医療的ケアを受けながら日常生活を送る子ども

 1日に発生した能登半島地震は8日で1週間となったが、被災地ではいまだに停電が続いている地域もある。人工呼吸器や在宅酸素療法など命に直結する機器の稼働を電力に頼る埼玉県内の医療的ケア児にとって、停電は危機的な状況だ。避難所への移動にも時間がかかり、大勢の避難者が身を寄せる状況下で優先的に電源を使用できるとも限らない。埼玉県内の医療的ケア児の保護者らは「大災害が起きたら、どうにもならない」と不安がり、物品の保管場所の提供など行政に支援を求める。

 県医療的ケア児支援センターによると、県内の医療的ケア児は約860人。県は支援者への研修などを通じ災害対策支援を行っている。しかし、医療的ケア児の中学生の息子を育てる女性=さいたま市=は「避難用セットを用意しているが、不足が不安で、災害時のことを考えないようにしている部分がある。皆が被災した状況で安否確認や病院への誘導が機能するとは思えず、自分たちでなんとかしなければ」と話す。行政には医療機器の非常用バッテリーの購入補助などの制度の周知を求めている。

 小児の患者が多い県内の訪問診療クリニックでは、能登半島地震後に「災害が起きたらどうすればいいか」という相談が担当する患者家族の約1割から寄せられた。クリニックの担当者は「2011年の東日本大震災の時には生まれていなかった患者が多い」と指摘する。

 人工呼吸器に非常用バッテリーを付属しているメーカーもあるが、非常用バッテリーを含めても長くて1日ほどしか持たず、充電が必要となる。在宅酸素療法も、ボンベでは数時間しか確保できない。担当者は「血中酸素が低下すると意識障害の恐れがある。命が助かっても災害関連死につながる」と話し、「避難所で充電を優先的にさせてもらえるよう、理解の浸透が必要。行政も非常用バッテリーの費用補助など、臨機応変な施策をしてほしい」と注文する。

 医療的ケアが必要な10代の息子と暮らす女性=ふじみ野市=も「津波や洪水の心配が少なく、東日本大震災の時も計画停電の対象外で、危機意識が薄れていた。逃げられる時に逃げられるようにしなければ」と危機感を募らせる。高齢者や障害者ら要配慮者が身を寄せる「福祉避難所」は開設に時間がかかり、場所も遠い。そのため、現実的には自宅にとどまる「自宅避難」をするほかなく、「避難先の選択肢が狭い」と嘆く。

 避難用のセットは息子の分だけで衣装ケース二つ分。「頻繁におむつを替えるし、食事にも水を飲むのにも道具が必要」で、何も持たないと一般の避難所には数時間しか滞在できない。家を出るにも息子をベッドから車いすに移し、人工呼吸器も移動やつなぎ替えるなどのステップがあり「10分はかかる」という。

 人工呼吸器の電源が確保できそうな病院などに避難できるようになるまでの短期間は、普段往診を担当している近所のクリニックが受け入れてくれることになっている。電源やケアに必要な道具の心配はないが、保護者の食料などの物資や、ほかの医療的ケア児が避難した場合に満杯になる懸念も。

 女性は医療的ケア児の親を悩ませる物品の保管場所として行政の支援に期待する。「公民館でも、コンビニでも、レンタルボックスでもいい。物品まで提供しなくても、こちらで用意したものを置かせてほしい」。ほかにもケアが必要な当事者と共に避難体験を実施するなど、「当事者と一緒に準備をして、紙や動画だけで得たイメージではなく、生のイメージをつかんでほしい」と求めている。

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