ヘマするチームはなかった…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©Real Madrid]

「もう行っちゃうんだ」そんな風に私が意表を突かれていたのは月曜日、午前中にマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場でセットプレー漬けだったセッションを済ませた後、アトレティコはバラハス空港に向けて出発。早くもスペイン・スーパーカップ開催の地、サウジアラビアのリアドに移動すると知った時のことでした。いやあ、クリスマスのparon(パロン/リーガの停止期間)明けの年初はミッドウィークにリーガが開催。代わって週末にはコパ・デル・レイ32強対決が開催されたスペイン・サッカー界だったんですけどね。マドリッド勢4チームが時間差でプレーした土曜に先陣を切ったアトレティコは翌日曜を休養日に。

要は月曜に1回だけ練習した後、試合前日の火曜に現地で最後の調整をすることになるんですが、準決勝でぶつかるお隣さんなど、コパが終わった時間が午前零時近くと遅かったにも関わらず、翌日曜にはしっかり、ローテーションで出場しなかった選手たちを中心にバルデベバス(バラハス空港の近く)でトレーニング。もちろん月曜も練習してから、飛行機に乗っているのを見た日には、まあ確かに今季のマドリーダービーでアトレティコは3-1と快勝しているんですけどね。とはいえ、その後の紆余曲折により、現在、勝ち点10差をつけられているアンチェロッティ監督のチームと戦うにはちょっと、シメオネ監督の覚悟が緩い気がしますが、それともたった5日間のバケーションでは足らず、まだ選手たちが12月の連戦の疲れを引きずっている?

まあ、その辺は今年になって、指揮官から、新たに過密日程への不満は聞かれていないため、私が邪推しているだけなんですけどね。とりあえず、先にコパの試合がどうだったか、お伝えしていかないと。リーガのアウェイゲームではここ4連敗、年明けもモンティリビでのジローナ戦後半ロスタイムに失点し、4-3と競り負けるという、痛いスタートとなったアトレティコだったたけに、RFEF1部(実質3部)のルーゴ相手のコパだったとはいえ、メトロポリターノを離れての試合を心配していた私だったんですが、アンソ・カーロでの試合では開始から2分もしないうちに先制ゴールが決まったから、ビックリしたの何のって。

そう、GKオブラクやボランチに移ったビッツェルを除き、ほぼ控えメンバーを並べたチームは立ち上がりだけは目をパッチリ覚ましていることに成功したか、サウールのスルーパスをハビ・ガランがエリア内左奥から折り返し、ゴール右前からコレアが決めたんですが、まさかそれでお役御免とばかりに皆、眠りについてしまうとは!というのもそこから、徐々に3度もパスが続かないという悪癖が顔を出した彼らは、ええ、サウールなど、敵目掛けて真っすぐパスという最大奥義も披露していましたからね。それが高じてとうとう39分、うーん、確かにルーゴのGKタブソがアスピリクエタを自陣エリア内で倒しながら、主審の注意をまったく引かなかったのは運が悪かったとはいえ…。

そこから出たロングのGKキックをヒメネスもソユンチュもクリアできず、先んじてボールを取ったアントネッティに同点ゴールを決められてしまったから、さあ大変!1-1で前半が終了した時、アトレティコのボールポゼッションが20%と出ていたのは私の見間違いだった可能性もありますが、こうなると、シメオネ監督だって、後半頭から、誰より張り切っていたせいで何度も敵に蹴とばされ、打撲を負ったリケルメはともかく、ソユンチュ、ハビ・ガランと合わせて、一気に3人を交代。グリーズマン、コケ、デ・パウルのレギュラートリオを送り込んでも致し方なかったかと。

ただまあ、このテコ入れは大成功で、後でシメオネ監督も「Nos dio mayor fluidez/ノス・デイオ・マジョール・フルイデス(ウチにより多くの流動性をもたらした)」と言っていたんですが、うーん、それでも後半10分にはCKをカストリンにヘッドされ、ゴールバーに当たって落ちて来たボールをヒメネスがゴールライン上でクリアしないといけなかったなんてことはあったんですけどね。21分にはコケが送ったスルーパスをメンフィス・デパイがエリア内で受け、敵DFをかわしてシュート。ヨハネコがファーサイドでヘッドクリアしようとして、ネットに入ったように見えたものの、すでにラインを割っていたか、メデタク勝ち越しゴールになってくれたんですよ。

おまけに負傷から復帰後初ゴールを挙げたデパイは29分にも3点目をゲット。こちらはサウールと交代で入ったジョレンテが送ったラストパスをエリア内から、見事なvolea(ボレア/ボレーシュート)で決めたんですが、多分、シメオネ監督も当人が試合に出る度、すぐケガをしてしまう前例を無限ループするのを避けたかったんでしょうね。スコアが1-3になってすぐ、モラタとチェンジしていましたが、これでアトレティコは5人の交代枠をコンプリート。そのせいで後半ロスタイムに太ももを痛めたアスピリクエタが試合終了の笛を待たずにピッチから出て、最後の1分は10人でプレーすることになったんですが、大丈夫。ルーゴはお隣さんと同じ勝ち点で1部首位に並ぶ強者ジローナではないため、そのまま危なげなく、勝ち上がることができましたっけ。

一方、兄貴分から遅れること1時間、今季はRCDEスタジアム改め、ステージ・フロント・スタジアムという名称になったエスパニョールのホームでキックオフとなったのが弟分のヘタフェで、何せ、彼らは来週のスペイン・スーパーカップにはまったく関係ないものの、その決勝が予定されている週末のリーガ20節がレアル・マドリーとの兄弟分ダービーだったがため、月末に順延。そのせいもあって、ボルダラス監督は2部チーム相手にバリバリのレギュラーメンバーを並べたんですが、前半はブライトワイテやジョフレにシュートを撃たれながら、GKダビド・ソリアのparadon(パラドン/スーパーセーブ)もあって、かろうじて0-0で命拾いすることに。

後半になってもあまり状況は好転しなかったため、20分にはラタサを前節のラージョとの弟分ダービーでとうとう、昨季に負ったヒザの靭帯断裂の重傷から復帰したエネス・ウナルに代えたヘタフェだったんですが、それが決め手になりました。ええ、スコアレスドローのまま、延長戦が不可避に思えていた42分、そのウナルがルイス・ミジャをワンツーでエリア内に送り込み、そのシュートで決勝点が入ったとなれば、土壇場で0-1勝利をもぎ取ったボルダラス監督が、「Es una noticia magnífica que volvamos a contar con él/エス・ウナ・ノティシア・マグニフィカ・ケ・ボルバモス・ア・コンタル・コン・エル(彼を再び当てにできるようになったのは素晴らしい知らせだ)」と破顔していたのも当然だった?

ちなみにその直後にプレーしたのが、もう1つの弟分のラージョで、やはり2部のウエスカ相手にエル・アルコラスでキックオフとなったんですが、ええ、フランシスコ監督のチームもヘタフェ同様、20節のアトレティコ戦が1月末に先送りとなり、来週末はフリーに。すでにアフリカ・ネーションズカップのための代表合宿に旅立ったパテ・シス(セネガル)とベベ(カーボベルデ)がおらず、トレホとアルバロ・ガルシアが負傷でいないのは仕方なかったんですが、スタメンの半数にローテーションをかけたせいでしょうか。久々に先発したRdT(ラウール・デ・トマス)もあまり改善が見られず、前半を0-0で終了します。

後半30分には今季、ゴールを挙げているFW陣、カメージョとファルカオを入れたものの、ようやく彼らがウエスカの壁を破れたのは、延長戦後半なってからのことでした。それも大詰め、残り3分、カメージョがエリア内に入れたクロスをファルカオがヘッドで繋ぎ、キャプテンのオスカル・バレンティンがゴール前から、こちらも頭で決め、先制ゴールとなったんですが、それでウエスカも力尽きましたかね。ロスタイム1分にはチャバリアのシュートがGKフアン・ペレスに弾かれた後、こぼれ球を拾ったイシが2点目のゴールを挙げ、最後は0-2でちょっと余裕を見せて、勝利できたのは良かったかと。

それにしたって、リーガは当分ない弟分2チームとはいえ、1月第3週のミッドウィークに回ってくるコパ16強対戦では手ごわい1部チームとの対戦で消耗しそうじゃないかって?その通りで月曜の夕方には前日、前後半を1-1で引分け、延長戦に入る直前にスタジアムの照明が消えたため、中断していたウニオニスタ(RFEF2部/実質4部)とビジャレアルの試合が再開。意外にも前者がPK戦で勝ち上がるのを待って、ラス・ロサス(マドリッド近郊)のスペイン・サッカー協会本部で行われた抽選会で彼らはバルサと当たるご褒美をもらったんですが、その他、もう1チームだけ、ラス・パルマスとのカナリア諸島ダービーを制して、1部でないのに勝ち上がったテネリフェはマジョルカと対戦することに。

それはももう、生き残っている16チーム中、1部が14チームもあるため、覚悟しなければならなかったことなんですが、うーん、ヘタフェはセビージャをコリセウムに迎えるだけマシかもしれませんけどね。実は抽選担当のゲストとして招かれたアトレティコのカンテラーノであり、昨季を最後に引退するまでラージョでプレーしていたマリオ・スアレスが最悪のカードを引き寄せてしまったんですよ。というのも抽選で最後まで残ったラージョはアウェイでジローナと対戦。首位グループにいるチーム相手となれば、かなり勝ち上がる可能性が減ってこない?

ただ、それどころではなかったのは、その直前に引かれたアトレティコで、まずはメトロポリターノ開催となってホッとしたものの、マリオ・スアレスはどうして寄りによって、対戦相手にお隣さんを引いちゃったんでしょう。そう、つまりこれって、この水曜にスペイン・スーパーカップ準決勝のマドリーダービーの後、その1週間後にはコパ・ダービーとなるってことで、最悪、2連敗の目でも出た日には早くもアトレティコの今季が終わってしまう可能性もなきにしろあらずってことじゃないですか。

ちなみにそのマドリーは土曜最後の時間帯にコパ32強対決のアランディーナ(RFEF2部/実質4部)戦となり、いやもう、ラージョの延長戦のせいもあって、午後4時から、真夜中近くまで、TV観戦とはいえ、延々と見る破目になったのには、さすがの私も閉口したんですけどね。やはりリーガの首位チームには余裕があるのか、アンチェロッティ監督は当日に現地移動したチームにクロース、ビニシウスを招集せず、ベリンガム、ロドリゴ、モドリッチ、リュディガー、カルバハルもベンチ待機となることに。

よって、先発にはカンテラーノ(RMカスティージャの選手)3人が名を連ね、もうかなり途中出場で経験を積んでいるニコ・パスに加え、右SBにビニシウス・トビアス、ナチョとペアを組むCBにカリージョが入ったのにはちょっと面食らったファンも多かったかと。おまけにこの日はとうとう、昨夏にフェネルバフチェから移籍しながら、負傷続きでデビューが遅れていた18才、アルダ・ギュレルがスタメン入り。ホセルの後ろでトップ下を務め、才能の片りんを感じさせるプレーも見せてくれたものの、残念ながら、マドリーも弟分2チーム同様、前半は0-0のまま、終わります。

それでも後半9分にはまた、ビニシウスに代わって、先発に戻っていたブライムが変わらぬ好調ぶりを披露し、いえ、アンチェロッティ監督からハーフタイムに、「Ha fallado muchos pases/ア・ファジャードー・ムーチョス・パセス(沢山のパスをミスッた)」と怒られたのが効いたかもしれないんですけどね。エリア内に入ったところで敵の2選手に挟まれて倒され、ペナルティをゲット。今季は4回もらったPKをことごとく失敗していたマドリーですが、この時はホセルが落ち着いて決め、先制点を奪ったとなれば、もう波乱を恐れることはありませんって。

おまけにその1分後にはブライムが味方にエリア内で当たったボールを拾って2点目を挙げ、あっという間にリードを広げたマドリーだったんですが、その辺りでギュレルと11月のフランス代表で負傷して以来、初先発となったカマビンガは時間切れ。ロドリゴとバルベルデに交代したんですが、45分にはそのロドリゴもブライムのアシストでゴールを挙げたとなると、すでに始まっている超過密スケジュールでローテーション可能なマドリー前線の優位は揺らがない?

いえ、後半ロスタイムにはアランディーナも滅多にない大物チームの来訪を心待ちにしていたファンに応えるべく、カブラルがシュートを放ち、ナチョのクリア失敗によるオウンゴールでスコアを1-3にする意地を見せたんですけどね。もちろん、このラウンドではまだカテゴリー差が大きいとはいえ、日曜にバルバストロ(RFEF2部)から、2-3で逃げ切ったバルサですら、レバンドフスキやギュンドガンらを後半に投入。それを考えると、レギュラー選手をほとんど使わず、マドリーが快勝しているのは、水曜午後8時(日本時間翌午前4時)からのスペイン・スーパーカップ準決勝でもお隣さんに対して、大きな強みになるような。

実際、昨年も同大会に出場して、決勝でバルサに1-3と負け、タイトルを逃している彼らにしてみれば、木曜にオサスナと準決勝を戦うチャビ監督のチームにリベンジする方がメインなんでしょうけどね。大体がして、アトレティコは最後の出場となった2022年には準決勝でアスレティックに負け、マドリーとの決勝にすら、辿り着けず。それだけでなく、アンチェロッティ監督のチームには日曜の練習からメンディも合流し、長期離脱のクルトワ、ミリトン、アラバを除いて、ケガ人もルーカス・バスケスだけになりましたからね。こうなると、とても楽観的な予想は立てられないんですが、リアドのKUSスタジアムでの試合は一発勝負。真冬から春模様への気温の変化に惑わされず、今はとにかくアトレティコがピッチに入る前に目を覚まして、キックオフを迎えてくれることを祈るばかりでしょうか。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

© 株式会社シーソーゲーム