[社説]ロシアの一斉空爆 戦争拡大の危機高めた

 年末から年始にかけて、ロシアとウクライナが激しい攻撃の応酬をした。きっかけは昨年12月29日、ロシアによるドローンやミサイルを使ったウクライナ全土への一斉空爆である。36機の無人機を使って複数の方角から攻撃し、18機の爆撃機が90発の巡航ミサイルを発射した。

 侵攻から約1年10カ月、最大規模となるミサイル攻撃で、ウクライナ側によると、住宅や学校、産院が攻撃を受けた。40人以上の死者が出て、負傷者は160人を超えた。

 バイデン米大統領は声明で、ウクライナを消し去るというプーチン大統領の目標は変わっていないとし「食い止めなければならない」と強調した。

 ロシアでは3月に大統領選がある。有力な対立候補はおらずプーチン氏の再選が確実視されている。一斉空爆は、ウクライナ侵攻が世論の支持を得ていると、自らを正当化する意味合いもあろう。権力を維持するために、ウクライナ市民の命が犠牲になっている。

 一斉空爆では、ロシアのミサイルが一時、ウクライナの隣国ポーランドの領空を通過した可能性があり、ポーランド外務省はロシアの臨時代理大使を呼び出した。ポーランドは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国で、NATOは加盟国が攻撃を受けた場合、武力行使を含む行動を直ちに取ることができる。

 一斉空爆は周辺国の緊張をもかつてないほどに高めた。長引く戦火で紛争地が拡大する危険性がある。

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 ウクライナのゼレンスキー大統領は「テロには必ず報復する。国民の安全を確保するために戦う。ロシアは敗北しなければならない」などと強く非難。国境近くのロシア地域を標的に相次いで攻撃を仕掛けた。

 ロシア西部ベルゴロド州では各地で爆発が起き、商業施設や住宅など10カ所以上で火災が発生。ロシア側によると子どもを含む24人が死亡し、100人以上が負傷した。

 同州のグラトコフ知事は、頻発しているウクライナ軍の攻撃に不安を感じている市民について、移住を支援すると約束した。ロシアの国民にとっても既に戦争が身近なものとなっているという現実がある。

 報復による報復でロシアとウクライナの双方で犠牲が拡大している。昨年8月の時点で既に、両軍の死傷者は50万人近くに上っているとの分析もある。

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 国連安全保障理事会はロシアの一斉空爆を受けて緊急公開会合を開き、日本や欧米はロシアが民間施設を標的にしたとして非難した。

 上川陽子外相はウクライナを初訪問し、越冬支援のため、可動式発電機5基を供与することなどを表明した。女性や子どもに教育、保健医療を支援する考えも示した。

 ガザを含め、子どもを含む市民の犠牲が拡大している状況は「人類の危機」(グテレス国連事務総長)である。国際社会は一人でも多くの命を救うために、行動を取るべきである。

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