米政府諮問委、ILC計画実現「積極的に」 最大4350億円の支援想定

 【東京支社】国際リニアコライダー(ILC)計画を巡り、米政府の科学諮問委員会(P5)は素粒子物理学に関する今後約10年の方向性を最終報告書にまとめた。ヒッグス粒子の性質を解明するため、米国としてILC計画の実現可能性と設計の研究に積極的に取り組むべきだと提言。2014年の前回報告書より、推進へ踏み込む内容となった。

 P5の村山斉委員長(米カリフォルニア大バークレー校教授)が千葉県柏市で岩手日報社のインタビューに答え、約1年の作業を経て23年12月に公表した報告書について説明した。

 村山氏によると、粒子を量産して研究するヒッグスファクトリーの重要性は米国でも認識されているものの、現在の予算では国内に施設を整備することは不可能と判断。現在計画されている欧州の次世代型巨大円形加速器FCCと直線型加速器のILCが「われわれが考えている素粒子物理学の目標を達成できる。国際的なパートナーと一緒に実現したい」と強調した。

 報告書はいずれかの計画が実現可能と判断された場合、米国の支援は約10億~30億ドル(約1450億~4350億円)と想定。「これ以上の金額を支援すると国内のプログラムが空洞化してしまう。だが10億ドルを切ると十分な貢献とは言えない」との見解を示した。

 P5は素粒子物理学のプロジェクトについて、研究者の意見を反映して適切に評価し、米エネルギー省と国立科学財団に提言する組織。

 村山氏は「研究者の提案を吸い上げる中でヒッグスファクトリーの重要性がはっきりしたため、前回の報告書より踏み込んだ内容になった」と説明。今後の課題として「日本のILC計画は政府の態度だけでなく国際的な枠組みも決まっていない。早く明確にしなければならない」と指摘した。

 ILCは宇宙創生の謎に迫る素粒子物理学の巨大実験施設。岩手、宮城両県にまたがる北上山地(北上高地)が候補地で、日本政府は誘致の可否を検討している。建設費は文部科学省の有識者会議の試算で7355億~8033億円とされ、半分程度をホスト国となる日本、残りは関係国での分担が想定されている。

© 株式会社岩手日報社