がんゲノム検査、増える青森県内 2023年実施件数、過去最多205件 薬見つかり改善事例も

県病で行ったがんゲノム検査結果について、国立がん研究センター中央病院とオンラインで協議する北澤部長(左)=2023年12月(県病提供)

 がん患者の遺伝子変異を調べ効果が見込める薬を選ぶ「がんゲノム医療」実施に向けた検査件数が青森県内で増えている。県立中央病院と弘前大学医学部付属病院の2施設で実施した検査は2023年(11月末現在)、205件に上り、県内で検査が始まった19年以来最多となった。2病院の通算では666件(同)に上る。県病では約6割の人が治療薬が見つかり、約1割の人が実際の治療に進んでおり、状態が改善した事例もある。関係者は「がん死亡率が高い青森県だからこそ、対象者は検査を受けてほしい」と語る。

 県内で「がんゲノム検査」の施設基準を満たすのは県病と弘大の2病院。県病は19年7月から検査を実施。がんゲノム医療拠点病院の弘大は20年3月から検査を行っている。

 2病院の実績を合わせた件数は、19年が12件、20年108件、21年152件、22年189件と増加。23年は11月末までに200件を超えた。東北地方では宮城県、山形県に続く多さという。

 検査の対象は(1)標準治療が終わったものの、がんをコントロールできる水準に届いていない患者(2)標準治療がない希少がん患者(3)発生した臓器が分からない原発不明のがん患者ら。

 薬が見つかり、治療を受けた人も少なくない。県病で23年11月まで実施した202件のうち、薬が見つかったのは約6割に当たる130件(保険適用薬33件、保険適用外の薬14件、治験薬117件=重複含む)。実際に治療したのは27件(13%)だった。

 県病の北澤淳一・ゲノム医療部長・臨床遺伝科部長は「診療現場でゲノム検査の必要性が認識されてきたので、検査のオーダーが増えている」と話した。

 弘大病院で20年から実施した検査464件のうち薬が見つかり治療の提案をしたのが99件(21%)で、実際に治療を実施したのは43件(9%)だった。

 同病院腫瘍内科の佐藤温教授は「その人に合ったゲノム治療薬を使用することで、患者が生活できる時間が延びる可能性は十分ある。青森県の年間がん死亡者数が約5千人であることを踏まえると、そのうちの1割(年間500人)は検査を受けるくらいになるのが理想。患者の意識が高まり、担当医に対してがんゲノム検査を望むようになってほしい」と語った。

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がんゲノム医療の遺伝子検査 患者のがん組織や血液などから遺伝子を抽出して解析することで、がんの原因となっている遺伝子変異を特定する検査。遺伝子を高速で読み取る機器「次世代シーケンサー」の発達で検査が手軽にできるようになった。変異が特定できれば、分子標的薬(ゲノム医療薬)と呼ばれる薬でがん細胞を狙い撃ちする。検査の流れは(1)患者への検査の詳細な説明(2)がん組織の摘出(3)検査結果の検証(4)患者への検査結果の説明(5)治療法の選択-となっており、全体として1~2カ月かかる。検査は保険適用で、患者は1割~3割の負担で済む。毎月の負担に上限を設ける高額療養費制度を利用すればさらに少ない負担で済む。

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