世界初 牛の体温で体外受精卵生産 畜産研(青森・野辺地町)が開発、培養器不要でコスト減

体外受精卵の生産に用いる専用器具。卵子や培養液が入った試験管を収納し、牛の体内に挿入する
新技術で生産した受精卵により生まれた子牛をかわいがる平泉所長(右)と水木研究員=2023年12月中旬、野辺地町の畜産研究所

 青森県産業技術センター畜産研究所(野辺地町)が、牛の体温を利用して体外受精卵を生産する新技術を開発した。従来の方法で用いられる培養器が不要で、導入コストや衛生管理の手間が抑えられる。同研究所によると、培養器を使わない手法は国内外で研究されているが、全工程で機械類を使わず牛体温を利用して体外受精卵を生産する技術は世界初という。高値で取引される優良な血統の牛の生産効率化につながるとし、さらなる改良と普及を図る。

 体外受精は牛の卵巣から卵子を採取し、凍結精液を用いて体外で受精させる方法。牛への負担が少なく、受精卵の量産が可能として近年増加傾向にある。ただ受精卵の発育環境を人工的に調節する培養器が1台80万~200万円と高価な上、技術や衛生管理が難しい。卵子採取から受精卵生産までの一連の作業に対応できる獣医師は少なく、県内では数人だけという。

 同研究所は2019年度から培養器を使わない方法を研究。試験管に卵子と培養液、二酸化炭素や空気などの濃度を調整した混合ガスを閉じ込め、雌牛の膣(ちつ)内や牛の体温と同温度のぬるま湯が入った保温ボトルを培養器代わりに活用する技術を開発し、20年7月と22年1月の2回にわたり特許出願した。

 この方法では、試験管を専用の器具に収納して牛の膣内に22時間挿入し卵子を成熟させた後、受精させて保温ボトル内で5時間ほど管理。さらに再び試験管を膣内に挿入し、7日間の発生培養を経て受精卵を生産する。母牛への移植に使える受精卵の発生率は、培養器を用いる場合と同程度という。1回の受精卵生産にかかる経費は、保温ボトルのほかスプレー缶やプラスチック容器などの消耗品を合わせても1万円ほどに抑えられる。

 同研究所は21年7月に初めて体外受精卵の生産に成功。1年後には雌の子牛が誕生した。22年度はより使いやすい専用の挿入器具を作製。23年6月にさらに2頭の子牛が生まれ、現在も順調に育っている。

 平泉真吾所長は「この技術が広がれば、農家が希望する牛を県内でもどんどん生産できるようになる。もっとみんなが使いやすい形に改善しつつ、普及に向け研修会などを開きたい」と語る。繁殖技術肉牛部の水木若菜研究員は「資材や肥料の価格高騰などで農家が大変な中、この技術を使って血統の良い牛をたくさん生んでもらい、少しでも所得が増えればうれしい」と話した。

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