開業70周年「神戸サウナ」癒やしの力 大震災で全壊乗り越え「恩返し」の被災地支援

現在の「神戸サウナ&スパ」が立つ生田新道。全壊したビルを建て直し、1997年4月に営業を再開した=神戸市中央区下山手通2

 サウナを愛する「サウナー」の聖地とされる「神戸サウナ&スパ」(神戸市中央区)が今年、開業70周年を迎える。29年前の阪神・淡路大震災の日、神戸サウナの本館ビルは烈震に襲われ、全壊した。そこからファンの後押しで再建を果たし、震災を知るスタッフが各地の被災者支援などに取り組んできた。担当者は「大地震を経験した神戸のサウナとしてできることを考えたい」と思いを語る。(小野坂海斗)

 神戸サウナは1954年2月、三宮の繁華街近くに開業した。地元で親しまれる温浴施設が転機を迎えたのは95年1月17日。震災で建物が全壊し、休業を余儀なくされた。

 従業員の橋本憲一さん(61)は当時、神戸市垂水区の自宅で被災した。「まず職場に向かいました。まさか全壊しているとは、考えてもいませんでした」

 建物は傾き、隣のビルが寄りかかるように倒れてきていた。立ち入りを禁じる赤いテープの前で立ちすくみ、何もできなかった。幸い、館内にいた約250人は無事だった。

 その後、橋本さんはグループ会社が運営する加古川市内の健康ランドへ応援に行くことになった。そこで見た光景を、今でも鮮明に覚えている。

 「真冬の寒い中、神戸や阪神間で被災した人たちの行列ができていたんです。お風呂に入るのに2時間待ち。それくらい癒やしが求められていました」

 同様に、神戸サウナにも「早く再開して」と求める声が相次いだ。

 97年4月、2年3カ月の休業を経て、営業を再開。ビルの建て替えを機に温泉を掘り、名称を「神戸サウナ&スパ」と変えて再出発した。

■恩返しの気持ち

 2011年4月、神戸サウナのマッサージスタッフら13人は東北にいた。東日本大震災後の避難所で、ボランティア活動をする目的だった。

 3月11日から数日後、ある女性スタッフが提案したという。中学生の時に阪神・淡路を経験し、疲れのたまる避難生活を送った記憶がよみがえった。

 「神戸で被災した私たちだからこそ、分かることがあると思った」と橋本さん。宮城県の仙台市と石巻市に向かい、被災者の心身をいたわった。

 地震と津波の爪痕が残る光景に言葉を失うこともあった。それでも「神戸は全国から支援してもらい、復興した。恩返しの気持ちが強かった」と奮い立った。マッサージ後には感謝の言葉をかけられ、目頭が熱くなったという。

 16年の熊本地震の際も、スタッフを連れて被災地へ。橋本さんは「困った時こそ、助け合い。これは震災を乗り越えた神戸サウナのDNAみたいなものです」と力を込める。

■水風呂「11.7度」

 20年1月、阪神・淡路から25年の節目には、16度だった水風呂の温度を「11.7度」に変更した。本場フィンランドの冷たい水風呂に着想を得たものだが、震災への思いも込められている。総支配人の津村浩彦さん(62)は語る。

 「私たちが被災した『1.17』を忘れないため、社長の提案で11.7度になりました。不自然な数字の並びが話題のきっかけにもなっています」

 そして今年の元日に能登半島地震が起きた。翌日からフロントに支援募金箱を置いた。津村さんは「震災を知る神戸のサウナだからこそ、何か力になりたかった。お客さまの力も借りて、被災地にエールを届けたい」と話している。

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