佐野海舟や毎熊晟矢ら、Jリーグからアジアカップに挑む5名!「ベストな起用法」を探る。

日本代表にとって、優勝が「ノルマ」となる戦いが間もなく始まる。

カタールで開催されるアジアカップ2023は、日本が優勝候補筆頭として臨む大会となる。FIFAランキングはアジア勢トップとなる17位(昨年12月21日発表)で、2023年6月から国際Aマッチ9連勝中。下馬評通りの強さを見せて通算5回目のアジア王者に輝くことができるか。

王座奪還を狙うメンバー26名には、Jリーグから5人が名を連ねた。前川黛也(神戸)、野澤大志ブランドン(FC東京)、毎熊晟矢(C大阪)、佐野海舟(鹿島)、細谷真大(柏)は、欧州組が大多数を占める現代表において、どのようなパフォーマンスを披露するだろうか。

各選手の日本代表における立ち位置とベストな起用法について、考えを巡らせた。

佐野海舟に期待したい「遠藤の負担軽減」

今回のアジアカップに招集されたJリーガー5名のうち、最も多くの出場機会を得るのは、ボランチの佐野海舟かもしれない。

加入1年目の鹿島アントラーズでは、抜群のボール奪取力と推進力を生かしてリーグ戦27試合に出場。ダブルボランチの一角としてレギュラーに定着すると、試合途中からのサイドバック起用にも難なく対応し、「2023 Jリーグ優秀選手賞」を受賞する活躍を見せた。

昨年11月に行われた北中米ワールドカップ(以下W杯)・アジア2次予選にて、追加招集の形で日本代表初選出。ミャンマー戦でさっそく代表デビューを飾ると、元日開催となったタイ戦でもプレーし、ここまで2キャップを記録している。

アジアカップに臨むメンバー26名を見ると、ボランチを本職とするのは遠藤航・守田英正・佐野の3名のみ。<4-2-3-1>をメインシステムとした時、複数ポジションで機能する旗手怜央や板倉滉、中山雄太のボランチ起用も十分考えられるが、遠藤ら本職の3人にかかる期待は大きい。

佐野に期待されるのは、「替えのきかない大黒柱」である遠藤の負担軽減だ。所属するリヴァプールで徐々に存在感を高め、昨年12月のクラブ月間MVPに選ばれた日本代表キャプテンは、当然ながらアジア制覇に欠かせない。

一方、プレミアリーグではハードスケジュールを戦い抜いており、12月以降の7試合すべてに出場。特に第17節のマンチェスター・ユナイテッド戦から第19節のバーンリー戦まで3試合連続でフル出場するなど、過密日程でフル稼働した。

「鉄人」である遠藤といえども、プレミア1年目ということで心身両面において疲労が蓄積しているはずだ。よって、グループステージでは佐野を優先的に起用し、ノックアウトステージに向けて遠藤をできるだけ休ませたい。

また、現在23歳の佐野の成長は、今後の日本サッカー界にとっても大きな意味を持つ。

圧巻のボール奪取と的確なつなぎのパスで貢献する遠藤と同じタイプの選手は、やはり希少価値が高い。今年2月に31歳となる遠藤の充実ぶりは頼もしい限りだが、将来を見据えると後継者探しは急務である。

2023シーズンの明治安田生命J1リーグでインパクトを残したとはいえ、日本代表における佐野の立ち位置は「ルーキー」である。独特の緊張感があるアジアカップでプレー経験を積むことで、代表定着への大きな一歩としたい。

元日のタイ戦では、<4-2-3-1>のダブルボランチの一角として出場し、持ち味とする推進力を披露した。攻撃時に<4-3-3>へと変化するチーム戦術にも適応しており、前につけるパスにも光るものを見せている。

グループステージで佐野を優先的に起用することで、遠藤に休息を与えつつ、初の大舞台に臨む佐野の経験値アップおよび連係向上につなげる。文字通り一石二鳥の起用法で“ポスト遠藤”と目される背番号26を成長させることができるか。

選手の入れ替えを躊躇なく行う森保一監督の采配にも、期待を寄せたいところだ。

「柏のエース」は“ラッキーボーイ”にも?

佐野に続いて出場機会を得るのは、右サイドバック(以下SB)の毎熊晟矢とフォワード(以下FW)の細谷真大だろう。

所属するセレッソ大阪で不動の地位を築く毎熊は、2023シーズンのリーグ戦で31試合に出場。自身初となるベストイレブンに輝くなど、充実のシーズンを過ごした。

昨年9月のトルコ戦でデビューした日本代表では、ここまで4キャップを記録。初招集からすぐさまフィットし、攻守に計算が立つ毎熊を森保監督も高く評価。継続して招集していることが、その証だと言えるだろう。

タイミングの良い攻撃参加が光る毎熊は、誰とコンビを組んでも的確なサポートでアタッカーを輝かせることができる。実力者が集う代表では、どのポジションでも試合ごとに組み合わせが変わりがちだ。そのような状況でも対応力を発揮して、足場を固めつつある。

現状では菅原由勢のバックアップを務めることが濃厚だが、ターンオーバーも含めて少なくないプレータイムを得ると見る。また、昨年10月のカナダ戦で見られたように、一列前の右サイドハーフ(以下SH)で起用するパターンもあるはずだ。

現代表の右SHは、エースの伊東純也が一番手。トップ下と兼務する久保建英と堂安律、1トップと兼務する浅野拓磨らライバルは多いが、SH起用は十分あり得る。

前項の佐野と同じく、毎熊も大舞台は初めてとなる。“場慣れ”の意味でも、一列前のSHで後半途中から起用して、アジアカップの雰囲気を体感させる。つまり、ひとつのミスが失点につながりやすいSBではなく、最初はアタッカーとして起用するのが望ましいと考える。

もちろん、上記の起用法は試合展開に余裕がある場合に限定される。初戦のベトナム戦で複数得点のリードを奪い、毎熊を途中投入するシナリオが理想的だ。

2023シーズンの柏レイソルでリーグ戦14ゴールをマークした細谷にも、可能であれば初戦から出番を与えたい。

パリオリンピック世代のエース候補でもある細谷は、DFライン裏への抜け出し、マーカーとの駆け引き、ボールを呼び込む動き、そしてゴールへの嗅覚が秀逸な点取り屋。実に9番らしいエリア内の仕事人である。

A代表では、2022年7月に開催されたEAFF E-1サッカー選手権の中国戦でデビュー。昨年11月の北中米W杯・アジア2次予選で再び招集されると、ミャンマー戦とシリア戦の両方でプレー。シリア戦でA代表初得点をゲットし、元日のタイ戦ではフル出場を果たした。

現代表における細谷の立ち位置は、「1トップの3~4番手」だろう。W杯・アジア2次予選の2試合で計5ゴールと大暴れした上田綺世と指揮官の信頼が厚く、一発のある浅野が経験と実績でリード。圧巻のスピードとプレスを強みとする前田大然と3番手の座を争う形だ。

ただ、浅野と前田はサイドで起用される可能性があり、純粋な9番タイプは上田と細谷のみ。先日のタイ戦で精力的なポストプレーを披露した細谷が、上田に次ぐ2番手として計算されているかもしれない。

熾烈なトーナメントを勝ち抜くには、“ラッキーボーイ”の存在が不可欠だ。例えば、2011年のアジアカップ決勝では、李忠成氏の芸術的ボレー弾でオーストラリアを下して、通算4回目のアジア王者に輝いている。

奇しくも2011年と同じカタールで開催される今大会。当時の主戦FWだった前田遼一氏がコーチとして指導にあたる中、前田氏と同じ11番を背負う細谷がインパクト抜群の活躍を見せられるか。ラッキーボーイの誕生を楽しみにしたい。

GK陣最年長の前川黛也はピッチ内外で力に

ゴールキーパーの前川黛也と野澤大志ブランドンの選出は、それぞれ異なる意味合いを持つ。

両名の起用法を考察する前に、過去3大会のGK陣と比較してみたい。

・2011年大会:川島永嗣(27)、西川周作(24)、権田修一(21)
※平均年齢24歳

・2015年大会:川島永嗣(31)、西川周作(28)、東口順昭(28)
※平均年齢29歳

・2019年大会:東口順昭(32)、権田修一(29)、シュミット・ダニエル(26)
※平均年齢29歳

・今大会:前川黛也(29)、野澤大志ブランドン(21)、鈴木彩艶(21)
※平均年齢23.7歳

年齢はいずれも各大会の開幕日時点だが、今大会の平均年齢23.7歳は、2011年以降で最もフレッシュである。

フレッシュなのは、年齢だけではない。2011年大会の平均年齢は24歳と今大会と比べてほぼ変わらないが、前年の南アフリカW杯で守護神を務めた川島が引き続きゴールマウスを守った。

一方、今大会の3名にW杯経験者はゼロ。A代表における出場数は合わせて5(鈴木が4、前川が1、野澤は出場なし)であり、A代表経験の観点からも非常に新鮮味がある。

これまでの起用法から見ても、今大会の守護神は鈴木が務めるはずだ。スケールの大きさは誰もが認めるところで、自身初となるA代表でのビッグトーナメントで実力を発揮し、今後の守護神争いをリードしたい。

2番手は2023シーズンのヴィッセル神戸を支えた前川だろう。キャリア初となるリーグ戦全試合フル出場を果たし、安定感抜群のセービングで神戸の戴冠に大きく貢献。ベストイレブンは西川(浦和)に譲ったものの、その存在は際立っていた。

明るい性格でムードメーカーとしても知られる前川は、21歳と若い鈴木&野澤をメンタル的に支える役割も担うはず。ピッチ内外でサムライブルーの力となるに違いない。

鈴木と同世代の野澤は、2023シーズンに台頭した有望株。武者修行先のいわてグルージャ盛岡で経験を積み(2シーズンでリーグ戦36試合に出場)、今季よりFC東京へ復帰。第22節のセレッソ大阪戦でスタメン起用されると、そこからポジションを奪取し、リーグ戦10試合に出場。元日のタイ戦でA代表初選出となった。

タイ戦のメンバー発表会見で森保監督は、「野澤選手はオリンピック年代で所属クラブやU-22日本代表の大岩(剛)監督の下で非常に力をつけていて、伸び代を期待して招集しました。経験値は浅いですが、自分が試合に出るというギラギラしたものを練習の時から見せてほしいです」と招集の意図を明かした。

スケール感は鈴木と同じモノがあり、足元の技術に優れる野澤は、これからの日本を背負う逸材。指揮官の抜擢には、アジアの厳しい戦いを体感させて、今後の成長につなげる狙いがあるはずだ。

過去のアジアカップを振り返ると、優勝した2011年大会はグループステージ第2節のシリア戦で川島が一発退場となり、西川が急遽出場した(西川は続く第3節のサウジアラビア戦でスタメン出場)。このようなアクシデントは今大会も起こり得るだけに、GK陣で最年長の前川にかかる期待は大きい。

J1に「強度時代」到来か。ヴィッセル神戸と町田ゼルビア、歴史的優勝がもたらした“転換期”。

フレッシュなGK陣が伸び伸びとプレーできれば、3大会ぶり5回目のアジア制覇に近づくはずだ。理想はグループステージ第1節のベトナム戦と第2節のイラク戦で鈴木を起用して連勝し、第3節のインドネシア戦で前川にゴールマウスを託す形だが、果たして――。

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