スタートアップの出口戦略でM&Aは増えるのか? ゼロワンブースターがトークイベント開催

トークイベントの様子

欧米のスタートアップの出口戦略(EXIT)はM&Aが主流だが、日本ではまだまだマイナーな選択肢だ。スタートアップをめぐるM&Aの活用は今後どうなるのか。昨年末、ゼロワンブースターが都内で開催したカンファレンスで「スタートアップのM&AによるEXITをもっと増やすためには」と題したトークセッションが開催。M&A仲介のストライク<6196>から荒井邦彦代表、昨年エステー<4951>傘下に入ったスタートアップのコードミーから太田賢司代表がゲストスピーカーとして登壇、モデレーターをゼロワンブースターの鈴木規文会長が務めた。

イベントではまずゲストの太田氏があいさつ。同氏は香料メーカーの高砂香料工業でフレグランスの開発に従事し、その後、2017年にデータを用いて"香り"をパーソナライズ化するスタートアップのコードミーを創業、データに基づいてパーソナライズされたフレグランス商品を提供する事業などを展開し、昨年、エステーによるM&Aでグループ入りしたと紹介した。

コードミーの太田賢司代表

一方、荒井氏は自社の事業について、事業承継のM&Aに加えて、スタートアップのM&Aにも取り組んでいることを紹介。続けて、岸田政権が打ち出した「スタートアップ5か年計画」について触れ、日本をリードする企業の創出のために投資は不可欠であるとし、同計画の5年で10兆円の投資目安について「(投資家にすれば)あれは20兆円回収できないとダメ。そうなるとIPOでは絶対無理で、M&Aマーケットを発達させないと、これから先の日本の産業を担う会社は出てこないと思っている」と述べた。

スタートアップのM&Aは今後どうなる?

本題に入ると、欧米に比べ日本のスタートアップのM&A件数の少なさを鈴木氏は指摘。そのうえで足元の現状について、荒井氏は、日本企業の行動パターンから、今後は国内の大手企業がスタートアップの買い手となるM&Aが増えると予測。それを予見させる動きが国内で出始めているとした。

ストライクの荒井邦彦代表

一方、大手企業のM&Aを経験した太田氏もスタートアップのEXIT戦略では、ここ数年で変化を感じているという。VC(ベンチャーキャピタル)が出口戦略でM&Aにも目を向け始めているほか、早期に事業をスケールさせる手法としてのM&Aを重視する起業家が増えたことを挙げた。


買い手との出会いは?

では、大手企業はどのようにして、スタートアップのM&Aに至るのか。コードミーとエステーの出会いについて、太田氏は昨年1月にファーストコンタクトがあったことを明かした。以降、定期的な会合を重ねて、トップ面談の機会を得ることに。それがM&Aの決定打になった。両社で将来の事業展開について語り合い、方向性が見事に一致。M&Aが最善の道だと判断したという。

モデレーターを務めたゼロワンブースターの鈴木規文会長

続けて鈴木氏は成功するM&Aの条件について荒井氏に質問。荒井氏は、M&A後も被買収側が経営者として残るケースに限定したうえで、トップ同士の合意、方向性の一致が不可欠だとした。

さらに荒井氏は自身の経験を振り返り、交渉の重要局面で、買い手が自社の経営者を担ぎ出せるかもポイントだと指摘。大企業が売り手を選んでいるという錯覚に陥りやすいが、仲介業者から見ると、それはまったくの逆。中身の良い会社は買い手を選別しており、重要局面での立ち回り方も大事だと解説した。

老舗のM&Aこそ大きな効果

スタートアップのM&Aでは、大手や老舗企業が買い手になる。しかし、そうでないケースもある。鈴木氏は、ストライクが手がけた案件を取り上げた。海運スタートアップのShippio(東京都港区)が創業60年の老舗を子会社にした案件で、スタートアップによる老舗企業のM&Aが今後のトレンドとなるかと問われた荒井氏は、「トレンドが来るというより、私が(それを)つくりたい」と強い思いを述べた。

その理由について荒井氏は、資金調達能力の高いスタートアップが老舗企業をM&Aするほうが、日本全体のイノベーションが進展するからだという。その考えに至ったShippioのエピソードを紹介。子会社となった老舗企業で創業来初となるWi-Fiを開通させると、従業員から大変感謝されたのだという。

Wi-Fiの利用など当たり前と思われがちだが、荒井氏はこうした企業は日本全国に多数あると見る。後継者不在の企業では、人材採用や設備導入が消極的であり、エピソードが笑い話とは思えないという。スタートアップによる老舗企業のM&Aこそ、シナジーが大きいと考察する。

スタートアップM&Aのボトルネックはどこに?

欧米では圧倒的に多い出口戦略としてのM&A。最後に日本で増えない理由がテーマとなった。太田氏は起業家目線では2パターンがあると指摘する。そもそもM&Aしたくないという起業家がひとつ、もうひとつがしたくともできないという起業家がいることを挙げた。

後者について、あと1年経営あればEXITが見えていた起業家が身近にいたことを挙げ、サポートの形態として出資以外の方法も模索すべきだと主張。その一例として、大企業が発注することで、スタートアップの資金ショートを防ぐ流れにつながるとした。仕事の過程で、相性の良し悪しを判別できるとし、「新規事業開発に数円万円を費やすなら、(新しいアイデア・技術を検証する)PoC(概念実証)に回したほうがいいのではないか」と見解を述べた。

文:M&A Online

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