少女と里親夫婦に芽生えた固い絆 ひと夏限りの3人の愛おしい時間 「コット、はじまりの夏」新予告

2024年1月26日より劇場公開される、第95回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた映画「コット、はじまりの夏」から、新予告映像「夏よ終わらないで」編が公開された。

母親が出産するまでの夏休みを、遠い親戚の家に預けられることになった主人公のコット。家族の中でも孤独だった9歳の少女は「お父さんが好きなだけ預かっていいって」と力なく言うが、里親となるキンセラ夫婦は「私たちはうれしいわ」と温かく迎え入れる。映像では、新しい洋服を買ってもらったり、一緒に食卓を囲んだり、手をつないで歩いたりと、はじめは戸惑いながらも、キンセラ夫婦からの愛情を受け取ったコットが閉ざしていた心をゆっくり解放していく姿と、ひと夏をかけて3人が心を通じ合わせていく様子が描かれる。

成長したコットは「離れたくない」と自らの意思を伝えるが、家族以上に固い絆で結ばれていく3人には別れの時が訪れる。音楽家・青葉市子の「やっと見つけた、わたしの居場所」というナレーションが終わる映像は、終わりが来ると分かっているからこその、3人の愛おしい時間が収められている。

「コット、はじまりの夏」は、9歳の少女・コットが過ごしたかけがえのない夏休みを描いた作品。1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中でひとり静かに暮らす9歳の少女コットは、夏休みを親戚夫婦のキンセラ家のもとで過ごすことになる。アイリンに髪をとかしてもらったり、口下手で不器用ながら妻・アイリンを気遣うショーンと一緒に子牛の世話をしたり、2人の温かな愛情をたっぷりと受け、一つひとつの生活を丁寧に過ごすうち、はじめは戸惑っていたコットの心境にも変化が訪れる。緑豊かな農場でコットは、これまで経験したことのなかった生きる喜びを実感し、やがて自分の居場所を見つけていく。

監督・脚本は、これまでドキュメンタリー作品を中心に子どもの視点や家族の絆を描き出してきたコルム・バレード。長編劇映画初監督となる本作で、コットがキンセラ夫婦との生活の中で初めて触れた深い愛情、自己を解放し成長していく姿を静かながらも丁寧に描いている。さらに本作でデビューを果たした主人公コット役のキャサリン・クリンチは、史上最年少の12歳でIFTA賞(アイリッシュ映画&テレビアカデミー賞)の主演女優賞を獲得。その透明感と存在感で、寡黙だった少女が生きる喜びにあふれていくさまを表現している。

一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。

【コメント】

■岡田惠和(脚本家)
なんて静かで美しい映画なんだろう。コットが走るだけで、たまらなく幸せな気持ちになる。
世界中にいる、コットのように自分を持て余し、居場所のなさに言葉を失ってしまっている人たちに、
どうか心穏やかに過ごせる場所が訪れますように。希望と光の映画をありがとう。

■青葉市子(音楽家)
静けさに降る声へ、じっと耳を澄ませます。
アイルランド語の響き、木漏れ日の音、呼吸、光。宇宙のことを、ほとんど私たちが知らないように。
言葉にできないことが、この世にはたくさん散りばめられていることを感じられる映画です。

■中野量太(映画監督)
何気ない日常と大人の優しい眼差しがあれば、子どもは自然と輝きだし、
その小さな光が、今度は大人に、何気ない日常を生きる力を与えてくれていることを知りました。
子どもは、大人がいないと生きていけないけれど、大人は、子どもを守らないと、未来なんて無い。
今、必要な映画だと思いました。

■小川紗良(文筆家・映像作家・俳優)
「はぐれ者」と呼ばれたコットが、たしかな足取りで駆けてゆく。
自分の意志で、前だけを見て、大きく腕を振って。
大地も、木々も、空も、彼女を祝福するように輝いている。
誰かに受け止められた経験が、子どもの世界を大きく変えるということを、ひと夏の光の中に見た。

■児玉美月(映画文筆家)
車内に差す陽光が身体をあたたかく包み、冷たい水が渇いた喉を癒やし、 海の波打つ音が侘しい心を奏でる。
絶望に満ちたかつての若い季節を生き存えさせていたのは、
周囲にいた大人ではなく、ふとした瞬間の世界の囁きだったかもしれない。

けれども少女は歩む道の先のどこかで、大人たちもまたそれぞれに絶望を生きているのだとやがて知ってゆく。

■伊藤さとり(映画パーソナリティ)
あの時、少女はどう思ったのか。いつもまでも迎えに来ない家でどんな思いで暮らしていたのか。
甘えられずに大人の話を黙って聞き、何を感じていたのか。
大人の弱さも意地悪さも小さな体で受け止めて。
一緒に何かをすることだけが幸せ。言葉に出来ない子どもの感情が溢れ落ち、胸がギュッとなった。

【作品情報】
コット、はじまりの夏
2024年1月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開
配給:フラッグ
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