社説:災害時のデマ SNS拡散前に熟考を

 それは正しい情報だろうか。「よかれ」と思って拡散する前に、いったん止まって考えたい。

 能登半島地震による被害と混乱の中で、SNSを通して多くのデマが拡散された。

 X(旧ツイッター)では、住所を書いて「息子が挟まって動けない」と救助要請した虚偽の情報が流され、「外国人窃盗団が被災地に集まっている」「人工地震の可能性がある」などの根拠のない流言が投稿された。

 その情報を目にした第三者が拡散することで、消防や警察、被災地の自治体に問い合わせが相次ぐ事態となった。

 現場の確認で混乱するにとどまらず、救助活動を妨げ、被災者の命にかかわる事態である。

 災害直後は被害の全容が分からない。不安や焦りから「早く広めたい」と思ってしまいがちだ。

 米国の大学研究者らの調査によると、SNSでは事実より虚偽の情報の拡散率が70%も高いという。事実を1500人に伝えるには、虚偽情報より6倍もの時間がかかるそうだ。

 その情報の根拠は何なのか。国や自治体、報道機関が発信している情報と照らし合わせてみたい。発信者の普段の投稿も確認してはどうか。混乱時だからこそ、「真偽不明な情報は拡散しない」という冷静な判断が欠かせない。

 災害時の流言はSNS時代になり、一層広がりやすくなった。2016年の熊本地震では「ライオンが逃げ出した」とする虚偽の写真とともに投稿され、逮捕者が出た。18年の大阪府北部地震では「電車が脱線した」などの情報が拡散された。

 特に今回、Xの仕様変更で投稿の表示回数などによって収益(インプレッション)が得られるようになり、回数稼ぎが目的とみられる悪質な投稿が目立つという。

 総務省はXやメタ(旧フェイスブック)、グーグル、LINEヤフーのプラットフォーム事業者4社に、適切な対応をとるよう文書で要請した。

 「表現の自由」への配慮から、あくまで自主的な対応を促す形だが、明らかな虚偽や人命・人権を脅かす投稿に事業者は毅然(きぜん)と対処してほしい。

 SNSにはフェイクニュースやAI(人工知能)による偽画像があふれている。一方でSNSの有効活用が救命につながった事例もある。公的な教育や啓発を強めるとともに、一人一人が真偽を見極め、情報ツールとして使いこなす力を高めたい。
 

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