ULAが新型ロケット「ヴァルカン」初号機の打ち上げに成功 2号機の打ち上げは数か月後の予定

アメリカの民間宇宙企業ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)は日本時間2024年1月8日、新型ロケット「Vulcan(ヴァルカン、バルカン)」初号機の打ち上げミッション「Certification-1(Cert-1)」に成功しました。ヴァルカンにはアメリカの民間宇宙企業アストロボティック(Astrobotic)の月着陸船「Peregrine(ペレグリン)」が搭載されていました。【最終更新:2024年1月11日11時台】

【▲ ケープカナベラル宇宙軍基地第41発射施設から打ち上げられたヴァルカン(Credit: ULA )】

ペレグリンを搭載したヴァルカンは日本時間2024年1月8日16時18分(米国東部標準時同日2時18分)、米国フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地第41発射施設から打ち上げられました。ULAの発表によると、発射から1分53秒後に固体ロケットブースター(SRB)の分離、発射5分30秒後に第2段エンジン「Centaur(セントール)」による1回目のエンジン噴射(約10分間)の実施、発射43分45秒後には2回目のエンジン噴射(約4分間)の実施を確認したということです。

その後、打ち上げ50分後の日本時間同日17時9分にペレグリンの分離を確認。発射から1時間19分後にはセントールが3回目のエンジン噴射を実施し、深宇宙へ向けて飛行を開始しました。そして日本時間同日18時ちょうどに、ULAはミッションが成功したことを報告しました。

<ヴァルカンの概要と今後の展望>

ヴァルカンはULAが開発した新型ロケットです。ロケット1段目にはアメリカの民間宇宙企業ブリーオリジン(Blue Origin)が開発した新型エンジン「BE-4」を2機搭載しています。BE-4は燃料にメタン、酸化剤に液体酸素を使用します。ロケット2段目のセントールは1960年代から使用され改良を続けるエンジン「RL-10」の新型モデル「RL10C-1-1A」2機を搭載しています。RL-10は燃料に液体水素、酸化剤に液体酸素を用います。

ヴァルカンはSRBの本数やフェアリングの大きさをカスタマイズすることで、さまざまな大きさの衛星や探査機を打ち上げることが可能です。今回のCert-1ミッションではヴァルカンの「VC2S」形態が使用されました。VCは「Vulcan Centaur(ヴァルカン・セントール)」の略称で、2Sは2本のSRBおよびショートサイズのフェアリングを使用していることを表しています。

【▲ 発射台で打ち上げを待つヴァルカン(Credit: ULA )】

ULAはヴァルカンの打ち上げを既に70回以上契約しており、そのうち38回はアメリカの民間企業アマゾン(Amazon)の衛星コンステレーション計画「Project Kuiper(プロジェクト・カイパー)」で使用される衛星の打ち上げ契約です。

今回のヴァルカン打ち上げ成功は、アメリカの安全保障に関連した衛星の打ち上げにも影響を及ぼします。米国の軍や安全保障に関連する衛星の打ち上げは、国家安全保障打ち上げプログラム(National Security Space Launch program: NSSL)の契約で行われますが、ヴァルカンをこのプログラムで使用するためには2回の商業打ち上げ成功が要件となっています。ULAによると、次の商業打ち上げミッション「Certification-2(Cert-2)」ではアメリカの民間宇宙企業シエラ・スペース(Sierra Space)が開発した有翼式宇宙往還機「Dream Chaser(ドリームチェイサー)」が搭載され、今後数か月内に実施する予定だということです。Cert-2の打ち上げが成功すれば、2024年夏頃にはNSSLで契約された衛星が打ち上げられる予定です。

<Cert-1で打ち上げられたペイロード>

Cert-1ではヴァルカンに2つのペイロードが搭載されました。1つ目はアストロボティックの月着陸船「ペレグリン」です。ペレグリンにはアメリカ航空宇宙局(NASA)の5つの科学機器や日本の民間企業のタイムカプセルなどNASAの商業輸送サービス(CLPS)の下で合計21のペイロードが搭載されています。CLPSの枠組みで開発された月着陸船の打ち上げは今回が初めてです。

しかし、アストロボティックによると、ヴァルカンから分離に成功したペレグリンは推進システムで異常が発生し、太陽電池でバッテリーを充電するための姿勢制御が不安定になったと発表されました。ペレグリンでは推進剤の重大な損失が起きている模様で、アストロボティックが日本時間2024年1月10日2時すぎに発表したリリース(Update #7 for Peregrine Mission One)では月面への軟着陸の見込みはないと述べられています。この時点でアストロボティックの管制チームはペレグリンの運用期間を伸ばす方法を模索し、次の月着陸船「Griffin(グリフィン)」の開発に向けて関連するデータの取得を続けるとしています。

【▲ ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の新型ロケット「ヴァルカン」のフェアリングに格納されるアストロボティックの月着陸船「ペレグリン」(Credit: ULA)】

2つ目のペイロードは宇宙葬を手掛けるアメリカの企業セレスティス(Celestis)のペイロードです。SFドラマ「スター・トレック」の生みの親として知られるジーン・ロッデンベリー氏とその妻や同作に出演した俳優の遺骨が搭載されます。また、ジョン・F・ケネディ氏ら元米国大統領の遺髪も含まれています。セレスティスのペイロードはセントールに固定されており、地球からさらに遠い深宇宙へと投入されました。

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【更新】米民間企業の月着陸船「ペレグリン」推進システムで問題発生 月着陸の見込みなし(2024年1月9日)

Source

  • ULA \- Vulcan Cert-1
  • ULA \- United Launch Alliance Successfully Launches First Next Generation Vulcan Rocket
  • Astrobotic Technology \- News & Press
  • SpaceNews \- Vulcan Centaur launches Peregrine lunar lander on inaugural mission
  • Spaceflight Now \- ULA marks success with the inaugural mission of its Vulcan rocket launching a Moon-bound robotic lander

文/出口隼詩 編/sorae編集部

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