亡き杜氏に届ける酒蔵タンクアート

広島県呉市にある老舗の酒蔵を憩いの場にしようと、若者たちが酒蔵に絵を描きました。

創業150年以上。呉市吉浦で明治から続く蔵元「中野光次郎本店」です。

去年11月、呉工業高等専門学校の学生たちが酒蔵を訪れました。

酒造りに使うタンクにイラストを描くためです。

4代目の杜氏・中野光次郎さんが酒蔵に人を集め町を活気づけたいと、協力をお願いしました。

■中野光次郎さん

「今からここにもろみが入っていくので絵が完成したらそこに出来上がったタンクで仕込みたいと思います」

学生たちが考えたイラストのテーマは…。

■学生

「タンクの銀色の素材を生かして宇宙をイメージした案を考えています」

静かでひんやりとした酒蔵の雰囲気から連想したのは、「宇宙」。夏から半年をかけてデザインを練ってきました。

■中野光次郎さん

「高校生ならではの発想大人とも子どもとも違う自然な発想が出てきて面白かったですね。楽しい気持ちのこもったタンクで酒が仕込めるのが楽しみです」

しかし、思ってもみなかったことが起きました。去年12月、光次郎さんが仕事中に急病で倒れ、帰らぬ人に。50歳の若さでした。

イラストの下書きを進めていた学生たちにも知らせが。

■先生

「社長さんがおととい亡くなられた…」

■生徒

「ええ…!」

それでもプロジェクトを続けることを決断しました。作業は、線を描いた透明のシートに塗料で色を付けます。

それをタンクに貼りつけて完成させます。

■生徒

「完成形を社長に見てもらうことはできないけど精いっぱい期待してもらった分を返せるように気持ちをこめて作りたい」

学生たちは描き終えたイラストを手に光次郎さんの弟・稔康さんを訪ねました。

■弟・稔康さん

「最後までしてもえること我々もありがたく思っています」

光次郎さんも見守るなか慎重にシートを貼りつけ完成しました。

■学生

「みんなでがんばって完成したものがしっかりこうして貼れて良かったです(光次郎さんにも)喜んでほしいですね」

タンクを宇宙船に見立て、その先に待つのはユニークな宇宙人たち。

明るい雰囲気に仕上がりました。

■弟・稔康さん

「ある時に荷物が届いてお兄ちゃんの名前で箱を開けてみたら宇宙のデザインの壁掛け時計が届いたんですみんながデザインしてくれたこの空間に合わせて飾ろうと思って注文してそれが届いたお兄ちゃんもすごく喜んでくれていると思います」

光次郎さんが1人で営んでいた酒蔵。

存続の見通しは立っていません。

まちを元気づけたいと願い、若者たちに託したイラスト。

多くの人に見られる機会を静かに待っています。

【2024年1月11日放送】

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